第13話
資料室の扉を開ければ、約束していた相手は既にそこにいた。窓の外を見ていたらしいフェルカは、扉の音で私に気づいたらしい。
整った輪郭が夕日の色に染まっている。いっそ神秘的なほどの美しさを携えた彼が私を見る。
「来ないかと思った」
「お待たせしてすみません」
「いいよ。僕のお願い、もう一回ちゃんと頼んでいいかな」
彼はピンと人差し指を立てた。
「1か月後の芸術コンテスト。それに君の小説で大賞を取ってほしい」
「……」
「できるよ」
フェルカは真っすぐ私に手を伸ばす。その奥で私を見る瞳は肉食獣みたいに、ギラギラと強い光を纏っているみたいだ。
「完璧なんか捨てて僕の共犯者になって」
その手に、持ってきたトートバックを載せた。唐突に与えられた重みを支えきれず、フェルカはトートバックの中身をぶちまけている。あーあ。
トートバックの中身はノート。一冊や二冊じゃない、両手で足りない量のノートを見た彼は小さく声を漏らした。
「え、」
「今までの考えてたプロットとか、アイデアとか色々書き出してきました」
「……これ全部?」
「完璧じゃないんで、今までは形に残さなかったんですけど」
全部、形にならなかった脳内の物語。穴あきだらけの推敲もしていない完璧じゃないもの。不完全な私の、不完全な物語。
一晩中ノートに書きだして気づいた。
全部書きたい。
「完璧がアナタの形をしているなら、完璧なんて目指す意味なさそうなので。私は私のやりたいようにやります」
自然と口角が上がっていく。久しぶりに笑って表情筋が悲鳴を上げている気がする。なんでこんなに笑ってなかったんだっけ、まぁそんなのいいや。
目の前の少年が呆けた顔をしていて、それがさらにおかしくって笑う。さっきまで絶対逃がしません、って目をしてたじゃないですか。ねぇ?
「ちょうどいいです。私も本を書きたいところだったので。せいぜい置いていかれないでくださいね」
「……そう来なくっちゃ」
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