第11話

爆発的に流行した思念共有装置によって、言葉を不必要とする思念派が芸術の星でも主流になるだろう。そんな状況で小説を書こうなんて、まともな人間はしない。

 街灯が点き始めた歩道をゆっくりと歩いて家へ向かう。フェルカの話を思い出しながら歩いていたら少し早足になっていたらしく、普段よりも早く家につく。


「……ただいま」

「おかえり」

「お供え持っていくね」


 でも、お母さんはそんな小さい事気が付かないんだろうな。いつもと同じ背中を見て、お供え物を持っておばあちゃんの部屋へ向かった。

 おばあちゃんの部屋は生活動線から少し離れた場所にあって、私しか行かないから普段は扉が開け放たれている。のに、今日は珍しく部屋の扉が閉められていた。……嫌な予感がする。焦る気持ちを抑えてドアノブにそっと手をかけた。


「は?」


 おばあちゃんの部屋の本棚が全部空になっている。どこを見ても本の一冊も残っていない。一番いい出来だって教えてくれた本も、私がお気に入りだった本も何にもない。申し訳程度に、文房具だけが綺麗に机に並べられていた。

 はじかれた様に部屋から飛び出してキッチンへ向かう。今日はお母さんが一日家にいたはず、なのに。


「お母さん」

「……なぁに?」


 お母さんはいつも通り、キッチンに立って夕飯の支度をしている。小窓から差す夕日のせいで、顔に影が落ちて表情が読めないのもいつも通り。私が声をかけても振り向いたりせず、声だけで返事をするのも……。こんなにも異常な空間で、不気味なくらいにいつも通りだ。

 声が震える。ジワリと背中に嫌な汗がにじむ。


「お母さん、おばあちゃんの本は?」

「捨てたよ」


 淡々と、事実だけが伝えられる。夕飯の献立を言うみたいに、そんな普通のこと、みたいに……。


「なんで……?おばあちゃんが遺してくれた本だよ!?書いた本だけじゃなくて大切にしてた本もあったのになんで!?」


 感情のまま、子供みたいに声を上げる。だって、だって全部。


「全部、私の大切なものなのに――」

「メイサ」


 私の声は、たった一言で遮られる。お母さんはようやく私の方へ振り返って、にっこり微笑んだ。穏やかに緩められた目がこちらを見据えて、その奥に支配の色をにじませる。


「おばあちゃんの話はもうやめよう?ほら、今は言葉より映像の方が進化してるじゃない」

「……」

「外の星の人がわざわざ芸術の星に技術を伝えに来てくれたのよ!すごいわよね、ほらメイサもこれで進学先の選択肢増えるね!」


 そう言ってお母さんは笑う。それが私の幸せだって少しも疑わない、だから私の話も聞いてくれない。

 おばあちゃんが生きていたころはこんなにひどくなかったのに、いつからこうなってしまったんだろう。


「……そうだね」


 世界がどうにも息苦しい。大切だったものも、大切にしたかったものも、私の意志なんて関係なく無くなっていく。

 ――なら、私は。

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