第10話

「……うちの星、神秘の星なんて言われてるけど本当はそんな綺麗なものじゃないんだよ」


 何もしない、と笑うフェルカに教室の中に誘導されて、話を聞くことになった。夕暮れのオレンジ色の空が教室に不気味な影を落としている。


「共有装置ってね、使った相手の思念を塗り替えてるんだよ。言っちゃえば精神汚染みたいなイメージでね。思念体、さっき見えたでしょ」

「小熊と鴉ですか?」

「そう。思念体ってその人の意志の強さでどれだけ実体化できるか決まるんだ。普通は見えないんだけど強い思念体に近づくと見えるようになったりする」


 僕のはこの子、と彼は自分の掌に小熊を出して見せる。私の膝の上で丸まっている小犬と違って、その姿は透けてはおらず毛並みまでもがハッキリしていた。


「コレを強制的に装置と接続して、装置内で保存されてる思念に書き換える。そうやって簡単に相手に自分と同じ思考を持たせることができるってワケ。さっきの子は装置で書き換えられない強さだったから直接ね」

「そんなの洗脳じゃないですか」

「そうだよ。僕たち芸術の星を侵略しに来たんだ」


 何でもないように同意されて、瞠目する。そんな私を見てクスクス笑って彼は言葉を続ける。


「それを私に説明する理由は何です」

「言葉はもう少しで終わっちゃう。でもそれじゃつまんないから僕はこの星の言葉を学びたいんだ。」

「……それで?」

「委員長が小説を書いてくれるならキミらの味方になってあげるってこと」


 結局この侵略者にとってはどう転んでも娯楽程度にしかならないってことか。


「あ、さっきの超機密事項だから。委員長が知ってるってバレたらマズイかもね」

「ハァ!?」

「それに委員長だって言葉がなくなるのは嫌でしょ?なら手伝ってよ」


 彼の言葉にグッと押し黙る。みんなが注目しなくなるだけなら、静かに一人で書いていればいい。でも言葉がなくなったら私の夢は完全に絶たれてしまう。

 それでも、こんな状況でまだ小説を書こうなんて、そんなの絶対に反対される。


「私はもう小説は書かないんです。もっとちゃんとした、完璧な大人になるんです」

「……完璧ねぇ、じゃあキミが言う完璧って何なの?」


 そんなの、もうずっと考えてる。でもどれだけ考えても答えは出ず、壁にぶち当たったままだ。黙った私に彼は興味を失くしたのか手元の小熊を指で撫でる。


「自由自在に変化できる身体に、良く視える目。完全実体化できる思念体まで持ってる僕は、神秘の星じゃ完璧なんだけどね。それじゃつまんないからこうして悪い事企ててる」


 『完璧』はそう言って私を見た。


「返事は、まぁ今じゃなくていいよ。また明日聞かせて」

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