第13話

普段とは違う大人しい彼女を見ては騒ぐ気も起きなくて、手元でシーグラスをいじりながら海に日が沈んでいくのを見ていると唐突に彼女が声を張り上げた。



「今日はありがとうございました!……いやぁ、海って本当にキレイなものですねぇ」

「……そーね」

「もうお別れです」



 彼女の言葉にピクリと手が震えて、カシャとシーグラスが石にぶつかって小さく鳴った。

 隣に置いたビー玉を持ち上げて目線を合わせる。少女は出会ったころと変わらない笑顔で口を開いた。



「三日間ってやっぱり短いですね、ちょっと物足りないです」

「オマエがほとんど寝てたからだろ」

「そういうのは思ってても言っちゃいけないんですよ!」



 怒ったように頬を膨らせるのも、ずいぶん見慣れてしまった。



「……元気で、いてくださいね。好きに過ごしていいんですから。あ、でもほかの子に会ったら今度はもっと優しくしてくださいよ?」



 何かを託すみたいにそう言って、嫌に幻想的な色をした瞳が俺を見る。

 思えば出会ったときからこの目に見られるたび、ぎゅうっと胸が締め付けられるような気がしていた。だから、ずっとこの目から。この黄昏から逃げたくて。



「好きにって……。まぁ、普通に過ごすよ。高校生活も残りあと少ししかないし」

「……翔太くんは、それでいいんですか」



 秋っていう季節は、あんまり好きになれない。厳密に言えば秋の黄昏が。真夜中も、夜明けも、まだいい。でもソレだけはダメだった。

 秋の夕暮れは日に日に短くなっていく。地軸が傾いててどうのって話らしいけど、そんな理由なんてどうでもよかった。


 得体の知れない冷たくて怖い冬が、逃げるなって近づいてくる感覚が、いつだって耐えられない。

 黄昏に飲み込まれた日々はどうやったって帰ってこないのに、これ以上俺にどうしろっていうんだ。



「翔太くんは三日なんかじゃなくてもっとずっと、どこにだって行けるのに」

「もういいんだよ、どうせ全部普通に終わっていくんだ」

「……え?」

「奇跡なんて起こんないんだよ。ガキじゃねぇんだからもうそんなの夢物語だって分かってる」



 オマエの三日間が俺のただの週末だったみたいに。誰かの特別は、別の誰かにとっちゃどうでもいいことなんだ。

 叶わなけりゃ意味がない。どうせ叶わないなら願わないほうがいい。そうすれば、傷つかなくて済む。



「そんなことっ」

「――だったらオマエが何とかしてくれんの?」



 期待したって全部無駄なんだ。

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