第10話

昨日も行った店に顔を出すと、寡黙なおばさんが棚出ししていたスポドリを差し出してきた。あ、ハイ。買います。

 近くの公園のベンチに腰掛けるとペットボトルを開けてグイッとあおる。あー、生き返る。遠くで駆け回る小学生たちをぼーっと眺めながら、ビー玉の話に適当に相槌を打つ。



「海に行きたいんですよねぇ、ビー玉みたいにキラキラだって教えてもらったんです」

「……めんどくさいから嫌だ」

「もう!そればっかりじゃないですかぁ。私には三日間しかないんですよ?」



 オマエにとっては一年の間の三日間でも、俺にとっちゃただの週末なんだよ。



「……たった三日で何ができんの?」

「前の方はいろいろな場所の話をしてくれました!」

「だけ?どうせオマエは見に行ったりもできないのにそんなの知ってどうすんだよ」



 知識があるっていってもソレを活かせなきゃ意味なんてないだろう。海がキラキラだ、なんて絵本みたいなことを言って、夜の海が全てを喰らいつくしそうなほど暗い色をしているのだって知らない彼女はただ無邪気に笑う。


 どれだけ願ったって叶わなければ、意味、なんて。



「だったら翔太くんが何とかしてください」

「……はぁ?なんで俺が」

「だって私、なぁんにもできないビー玉ですもん」



 なら、黙ってそれを受け入れていればいいのに。


 どこから来るのか自信満々に笑う彼女を見ていたくなくて、ビー玉を持っていた腕を下ろした。



「……気が向いたらな」



 暗くなり始めた空から逃げるように、家への道を急いだ。

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