3 資料館

おもうさんの最近の動向が気になったので、カミサマ資料館に行くことにする。


カミサマ資料館:現在カミサマとして活動する人の全ての活動、強い感情、人間関係など、詳細に記録した資料の保管庫。カミサマを卒業するとその人の記録は空の上に移される。そのほかにも、日本の歴史や政治のあれこれなど、様々な資料が保管されている。カミサマは自由に出入り可能。


万に一でも、暴走されたら日本が終わりかねない。


一応、ある一定以上の大きな天災を起こすときは地球のカミサマの許可が必要だけど、小さな天災の場合は憶さんの独断と偏見で起こすことができる。


起こすときは事前に僕に教えて欲しいとは言っているけれど、守られたことは数回しかない。


カミサマの機嫌をとったり、ブレーキを踏んだり、時には解任したり、そういうのも僕の仕事だ。


ちなみにカミサマ資料館は、めちゃくちゃ広い。よく東京ドーム何個分とかで表現されるけど、関西住在なので分からない。よって、ここではユ〇バ3個分と言っておこう。この空間は、とくに理論だってはいないので、資料館の小さな穴が誰かの家に繋がっていたり、お風呂があったり、誰かの部屋が食い込んでいたりする。というか、ひとつの建物というわけではなくて、色んな建物がくっついていたり、はたまたくっついてすらいなかったりする。かなりチグハグなのである。


こだわればこだわるほど願を使うので、そのエネルギーは日本を守ることに使った方が良い。


館内はとても広く歩いて探すなんて不可能なのでこの資料館内はワープできる。

コーヒーカップが乗っているお皿のようなものに、それこそコーヒーカップの如く乗り、誰の資料が見たいのか言えば、そこまで飛ばしてくれる。帰りたい時は「帰る」と言えばいい。



『憶 omou』と書かれたファイルを引っ張り出す。両手をパーにして親指と親指をくっつけたときの、小指から小指ほどの分厚さはあるので、腰がやられそうになる。

憶さんは天災歴も長いし、その前には季節を担当していたらしいので、カミサマ歴は30年ぐらい。僕よりも、とても先輩。


近くにあった赤いソファーで読むことにする。


足元がすぅすぅするので、下を覗くとソファーの足の間は、雪国と繋がっていた。

どこだろうか?時空の狭間から顔を出してみる。


「……さっむ」


とにかく寒かった。寒いというより肌に凍てつくので、痛い。一瞬しか出していないのに、鼻はヒリヒリ。口には雪が入った。吹雪だった。


僕は足元冷房がいらなかったので、ソファーの上で正座をする。


「えぇーっと、最近は……」


僕は分厚いファイルをどっさどっさ捲っていく。


憶さんの話を聞いて、想像していた通り会社がかなり大変そうだ。


ファイル内にはその日に感じた心の声や変化、さらに身体的な変化まで詳しく記載されているのだが、これはひどい。


『しんどいしんどいしんどいしんどいしんどいしんどいしんどいしんどいしんどいしんどい』


『会社嫌い会社嫌い会社嫌い会社嫌い会社嫌い会社嫌い会社嫌い会社嫌い会社嫌い会社嫌い』


『チッ、この上司を竜巻に巻き込んでやりたいわ』


など問題ページばかりである。


これは解任か?など考えつつも、カミサマは人手不足ですでに欠けているところもあるので、簡単に解任できない現状があった。


それに、天災のカミサマはかなり責任も重く仕事も多いし、色々面倒なので人気がない!


いや、日本の治安を守っているのだから面倒とか言っている場合ではないのだけど、とにかく人気がない。超が付くほど不人気。


後継も候補はいるのだけど辞退し、今はいない。


憶さんの弟がすでに亡くなっているのも痛かった。


とりあえず、面談というか会議というか、とにかく会って話す回数を増やして、ほんとうにやばい!!もう無理!!ってなったら解任するかなぁ。


憶さんのメンタル面もそうだが、健康面も心配なので、レンジでチンするだけで食べられるお弁当のセットでもプレゼントしようかなぁ。


一旦、会社変えてみるのもありだなぁ。


多くの考えが頭をよぎる。


そして、昨日の夜更かし会議が響いているのか頭を使っていると眠気が出てきた。


先ほどから、睡魔が近づいてきたり、離れて行ったり、を繰り返している。


何度も夢のとびらを叩いているが、完全に開く前にまた現実へ。


こんな状態じゃカミサマ業務もままならないので、いったん帰って寝よう、そう思ったとき、夢へのとびらが開ききった。





ん?


視界が白く、ぼやぁっとする。


クリアになってきたので辺りを見回すと、本棚本棚本棚本棚本棚本棚本棚本棚本棚本棚本棚本棚本棚本棚本棚本棚本棚本棚本棚本棚本棚本棚本棚本棚本棚本棚本棚本棚


僕が頭を持ち上げると、下には『憶 omou』の文字が入った表紙。


どうやら眠っていたらしい。


記憶をたどると、そういえば帰ろうと思った瞬間夢を見始めたことを思い出す。


夢の中では家に帰って寝ていたので、資料館で眠ってしまっていた事実に違和感があった。


外の景色も見えないし、時計もないので、どれくらいの時間眠っていたのか分からない。


寝ぼけて円盤に乗っていないのに「帰る」と言おうとする。


「んん゛ん゛……あ゛い゛ん゛……」


が、思うように声が出ない。どうやら口から喉にかけて相当乾いているらしい。ひとつひとつの動作でいちいち引っ掛かる。


声は発さずに口を あいうえお の形にしてほぐす。


するとキツネのご飯ですよ、という声が頭の中に響いてきた。


つまり18時ということである。


毎日この時間から夕食をたべるルーティンなのでね。


僕は憶さんのファイルを丁寧に棚に仕舞い、コーヒーカップのお皿のような白い円盤物体に乗って


「帰る」


僕は呟くように言った。




というか、あのファイル、もう少し分割できないものなのか?分厚すぎるし、探すのもとても大変、という愚痴をキツネに言いながら僕は、おろしハンバーグを切り分ける。ポン酢がこれでもかとかかったハンバーグをご飯にダイブさせた。


「おいしい!!」


「■■」


「ほんと、キツネは料理が上手いよな」


「■■」


僕はハンバーグダイブ、白ごはん、味噌汁、の素晴らしいトライアングル方式で最後まで夕食を堪能した。


キツネの絶品料理を堪能したのち、お風呂に入る前にもうひと仕事するつもりだったけど、もう寝よう。


パソコンに電源を入れて、会う予定だった天気のカミサマに謝りのメールを送る。


僕はそそくさとお風呂に入り、キツネが綺麗に畳んでくれた赤色チェック柄のふわふわパジャマを着て、布団にダイブする。


明日もいい日になる!!そう信じて目を瞑った。



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