第2話

薄暗い部屋で、真由美は時計の音を聞きながら座っていた。彼女の周りには、忘れ去られた本や、未完成の絵が散乱している。時間は、いつの間にか彼女の生活を飲み込んでしまった。彼女はふと思い出す。「時間が悪魔だ」と、誰かが言っていたことを。


真由美は、あの日のことを思い出した。友人の結婚式で、幸せそうな笑顔を浮かべる友人たちを見ていると、自分だけが取り残されたような気がした。時計の針が刻む音が、まるで彼女の心を掻き乱すように響いていた。彼女は一体、何を失ったのだろう?


ある晩、真由美は夢の中で不思議な存在と出会った。それは小さな悪魔のような形をした影で、彼女に囁いた。「時間を奪ってしまうのは、あなた自身だよ」と。彼女は驚いた。「どういうこと?」


「あなたが過去に囚われている限り、未来は見えない。今を生きなさい」とその影は言った。目を覚ました真由美は、自分の心の奥に潜む恐れと向き合わなければならないと感じた。


日々が過ぎ、真由美は自分自身に問いかけるようになった。時間とは何なのか?それは流れていくものか、それとも留まるものか?時間は、私たちの感情や思い出を形作るものであるが、それと同時に、私たちから何かを奪っているのではないか。


ある日、彼女は公園で子供たちが遊んでいる姿を見つめた。彼らは無邪気に笑い、時間を忘れているようだった。真由美は思った。「子供たちは、時間を奪われることなく、ただ楽しんでいるのかもしれない。」


彼女は自分も、日常の中で小さな幸せを見つけることができるのではないかと思い始めた。友人と笑い合い、家族と過ごし、好きなことに没頭すること。それが、彼女にとっての「時間を奪われない」瞬間になるのではないかと。


それでも、真由美は時折、あの悪魔の影が頭をよぎることを否定できなかった。「本当に今を生きているのか?」と。彼女は不安になりながらも、一歩ずつ自分の時間を取り戻す努力をすることにした。


月日が流れ、真由美は新たな趣味を始めたり、友人たちと出かけたりするようになった。小さな幸せが積み重なり、彼女の心に少しずつ明るさが戻ってきた。そして、彼女は気づいた。時間とは、ただ流れるものではなく、自分がどう生きるかによって意味を持つものだと。


悪魔の存在は消えなかったが、彼女はその影を恐れずに受け入れることができた。「時間は私を奪うのではなく、私に与えるものでもある。」そう思えるようになった時、真由美は初めて自分の足元を見つめ、しっかりとした一歩を踏み出した。


それは、彼女自身の時間を取り戻す旅の始まりだった。

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憂鬱 原氷 @ryouyin

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