②
最初にそう感じた記憶は、授業が終わった放課後、妹と二人で学校の廊下をただ歩いていただけの時だ。
ひそひそ、ひそひそひそ……。
廊下ですれ違っていく何人もの生徒達。同じ学年の子もいれば、年上の上級生もいる。だが、誰もが私と妹を見て何かしらしゃべっている。あまりにもひそひそ声だから、何を言っているのかは聞き取れない。分かったのは「これまでとは全く違う」、ただそれだけだ。
気味が悪いという感覚を、初めて知った。保育園時代までは誰もが「双子ちゃんだね~」「かわいいね~」「本当にそっくりだね~」と優しい笑みと声を向けてくれていたのに、廊下ですれ違っていく生徒達は誰もがそれらとは真逆のものを私と妹に向けてくる。
「本当に顔そっくりだ」
「いつも一緒だし、ずっと同じ事しゃべってそう」
「何かロボットみたい、気持ち悪い」
やがて、そんな言葉が聞き取れるようになった時、私は心外だと思わずにはいられなかった。
確かに、私と妹は双子だ。だけどそっくりなほど似ているのは見た目だけで、同じなのも血液型とDNAくらい。性格も趣味嗜好も、何なら指紋だって違う。特技や考え方に至ってはさらにかけ離れている。例え双子だろうと、それぞれの個性を持ち、お互い独立した一人ずつの人間なのである。
だが、熟達した人格形成や思考をまだまだ持ち合わせない子供達が集う学校という世界では、ぱっとした見た目、つまり第一印象だけで全てを決めつけてしまうきらいが多々ある。私と妹はあっという間にその格好の餌食となってしまい、やがてそれが最悪の形となって押し寄せてきた。
その最悪の形の第一手は、小学校三年になったある日、何の前触れもなく突然起こった。階段を降りていた私の頭上に目がけて、何者かが中身の入った紙パックのジュースを落としてきたのだ。紙パックは私の頭に見事に命中し、おそらくオレンジジュースであった中身は顔も服もべたべたに汚してくれた。
「よっしゃあ! 当たったぞ!」
「あれって、姉ちゃんと妹のどっち?」
「どっちでもいいじゃん! もう一人の方も見つけてやっちゃおう!」
呆然としている私の頭上で、何人かのはしゃぐ声と走り回る足音が聞こえた。それらを聞いても、私はその時の状況を理解できなかった。いや、理解したくなかった。
……何で? 何で私、ジュースをぶつけられたの? 誰にも、何もしてないのに? 何で? どうして?
幸い、妹はその被害に遭う事もなく無事だったが、この日を境に私達は周囲の生徒達に、とりわけ上級生達にひどい中傷や嫌がらせを受け続ける事になった。
双子に生まれた、ただそれだけの理由で。
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