私について

 この実話の物語を始める前に、まずは私についてお話ししたいと思う。


 私こと、売れない小説家もどきでペンネーム井関和美いせきかずみは、1980年5月20日、小さな中華料理店を営む父とちょっとした良家のお嬢様育ちである母、そして10歳年上の姉の下、双子の姉として妹と共にこの世に生を受けた。


 自分でこう言うのも何だが、保育園時代までは割と人気者だったと思う。双子であるという事がかなり大きかったのだろう。アルバムの写真を見返してみれば、赤ちゃんの頃からその保育園時代に至るまで、近所の人や保育園で同じクラスの子達など、いつもたくさんの人達に囲まれて楽しそうに笑っている姿ばかり写っている。


 今でこそさほど大した事はないのだろうが、昭和という時代の中、双子という存在と概念はよっぽど希少だったのかもしれない。どこに行ってもちやほやされるというか、とにかく物珍しがられた。あと、妹は少し病弱だった事もあったので、まるで妹の分の元気まで吸い取ったかのように健康体だった私は、物心付いた時には「自分は姉である」という自覚を早々に持ち、いつも妹と一緒にいた。それも加わった事で、余計に珍しがられる部分もあったと思う。


 保育園時代までは、別にそれでもいいと思っていた。双子であるという事、その姉であるという事が当時の私にとって大きなアイデンティティであり、子供なりに誇らしかった。他の誰も持っていない自分と妹だけのステータスであり、それが一生続くものだと信じて疑いすらしていなかった。


 周りの空気が一変したのは、小学校入学直後の事だ。


 保育園と違って、関わる人間の数や環境の大きさ、否が応でも押し寄せてくる情報量の多さに混乱するだけなら、まだよかった。自分の中で対処して、うまく消化すればいいだけの話なんだから。


 だが、まさかそのせいで、これまで自分と妹に向けられていた目まで変わってしまうだなんて思いもしなかった。


 どうしてあんな事が起こってしまったのか、大人になって、それなりにいい年になった今現在でも全く分からない。


 これからも、きっと分からないままなんだろう。たぶん、一生。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る