遠距離恋愛の終わりと生き地獄の始まり
①
2024年4月3日水曜日。私が住んでいる町は朝から土砂降りの大雨だった。
私はこの日、朝から妹と二人で出かける予定だった。数日後に控えた第二の甥の誕生日を盛大に祝うパーティーの準備の為、あれやこれやと買い出しをする事になっていた。
夜型の仕事をしているので、早起きはとても苦手だ。それでも何とか頑張って起き出して、朝食も着替えも済ませ、後は家を出るだけという頃合いになった頃、私は妹に声をかけた。
「ごめん。ちょっと電話させて」
「は? 誰によ?」
「
「え~? もう出かけるって時に……早めに済ませてよ?」
「はいはい、すぐに終わるから」
ちょっと不満げに顔をしかめる妹を宥めてから、私は二階の自室に入る。実は昨日――4月2日の18時から何度も電話をかけているのだが、交際を始めて28年目となる恋人が出る事はなかった。
さすがにこの時間なら繋がるだろうと、私はもう一度彼のスマホの番号に電話をかける。だが、昨日と全く同じで、無機質な「電話をお繋ぎしましたが、お出になりません」という機械音声が流れるだけ……。
売れない小説家もどきっていうのは、本当に厄介だ。ほんの一日電話が繋がらないってだけで、あれやこれやと悪い方向に想像力が働いてしまう。それを「典型的な日本人の悪い癖だよね~」と彼から笑われた事もあったし、自分でもその通りだってこの時は思っていた。
ねえ、頼むから早く電話に出てよ。それでさ、いつもみたいに「また君の不安がりが始まった~」って笑ってよ。「僕の事で、そんなに不安にならなくていいのよ~?」って、頭を撫でてよ……!
でも、どんなに祈っても、彼は電話に出ない。不安がピークに達した私は、気は進まないものの、彼の実家の番号に電話をかける事にした。10時8分の事だ。
数コールの後、電話に出たのは、彼のお母様だった。
『……はい、
「あの、もしもし! 私、○○(井関和美の本名の名字)と申します。昨日から△△(彼の本名)さんに電話をかけてるんですが、全然出てくれないんです。△△さん、いらっしゃいますか?」
『……』
「もしもし……?」
『……息子は、4月1日に亡くなりました……』
「……は?」
……この瞬間、28年間に及ぶ私と彼、二人の遠距離恋愛が何の前触れもなく終わりを告げた。それと同時に、私一人だけの、いつ終わるとも知れない生き地獄が唐突に始まった。
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