第176話
シャルトルの住宅街のコルネイユ邸は白い石造りの屋敷であった。
通されたのは長い大理石のテーブルの応接間。
ロジェの正面にずらりと並んでいるのは、湧いて出た蛆のようなプレヌの身内――もとい、由緒正しきコルネイユ一族の面々である。
真ん前に父親、隣に元夫。右隅にこんなときにもぬかりなく着飾っている母親と妹。
全員を瞬時に一瞥すると、挨拶もそこそこにロジェは単刀直入に切り出した。
「なぜ今になってお嬢さんを連れ戻そうと」
答えたのは正面の父親だった。
「娘婿から寛大にも申し出がありました。帰ってくるようにと」
平静を装っているが、その目の奥には並々ならぬ憤りの色が揺れている。
「もともとあの女が逃げたことによる、一方的な離縁だったからな」
対して隣の元夫のほうは鋭い目でさきほどからこちらを睨んでいて、敵意むき出しである。
半月前衆人環視の中セーヌ川に投げ込まれ面目をつぶされた相手に掴みかかんばかりの彼を落ち着けるように、父親が咳払いする。
「わたしたちは娘に戻ってくるなとは言ったが、それは夫の家に帰れという意味です。姿をくらまして噂を立てろなどとは言っておりません」
かすかに見え隠れする打算の色。
屁理屈で真相を塗り固める気だろうと思う。
あくまで手の内を明かさない気か。
そちらがその気ならば。
「要求は吞めません。彼女を都合のいいおもちゃにしたお遊戯は終わりです」
端的に告げれば、眉を歪めた父親が反論してくる。
「お言葉ですが、我々は彼女のために道は用意してやったのだ。ことごとくそこから逸れだめにしたあげく、あの娘は逃げ出した」
「跳ね上げたその足で、拾ってやった夫の名にこっぴどい泥まで塗ってな」
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