第175話

 見上げてくる彼女の顔が、さっと赤みを増す。

 潤んだ瞳でそれでも負けじと見返してくるアップルグリーンの中には、なにかが燃えている。



「あなたにだったら、されてもいいかな、なんて」

 ふいをつかれ、持っていた顎をとりこぼした。

「……ばか」

半ば本気の冗談ではあるが、そう大真面目に反応されるとこちらがものすごく恥ずかしいじゃないか。



「頼んだぜ。エスポール探しを妨げて悪いけど」

 これ以上ここにいたらずるずるといつづけてしまいそうで、ロジェは戸口に歩み出した。

「……ほんと。いつになったら会えるのかしら」

 かすかに寂しさの入り混じる声に、背を向けたまま立ち止まる。



「エスポールに会って、きみの目的が達せられたら」

 はっと息を呑む音。

 次に発したプレヌの声の中で、寂しさが前面に移動する。

「そしたら、旅も終わり……」



 そのことがどうにも切なく、愛おしくて。

 振り返らずに、ロジェは告げた。



「今度は世界を旅するか」

 ゆっくりと、片目だけ覗かせる。

「プレヌに見せたいものがいろいろある。アルハンブラ宮殿に、アルプスの山々。アマルフィーの海岸」

 背中にあたたかな感触がして、手が添えられたのだと、数秒遅れて気づく。



「行くっ。あなたと、どこにでも行く」

 その手をとり、胸の前に回して、そこに込めるように、ロジェは言葉を落とした。

「約束だ」

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