第177話
あふれ出る激情をロジェは歯を食いしばることでかろうじて押し留める。
ふつふつと、腹の底が煮えたぎり、全身を喰らいつくす不快。
毎晩の悪夢より、脅威と同時に嫌悪していた自分の実の父親よりも強く、彼らに憤っていた。
娘。妻。
聞いて呆れる。
「あなたたちが道を用意したという相手はそんなものではない。ただ権威を保つためのドレスを着た人形だ」
言い放つとしばし、静寂がその間を支配する。
顔をしかめ、元夫が口を開いた。
「なにが違うっていうんだ」
心底わけがわからないといった顔で。
ロジェはその上に、永遠に混じらない二本の平行線を見た。
それは相手方も同じようだ。
元夫と視線を交わした父親が、おもむろに席を立つ。
「ご理解いただけないのなら、残念だがこうするしかあるまい」
感情を抑え込んだ語調とはかけはなれた俊敏な動きでロジェの傍らに歩み出ると、強く肩を押さえつける。念には念をとつけてきた付け襟は力任せに引き裂かれる。
コルネイユ家の者に触れられ、かすかにぼやける自身の意識を、ロジェは観察した。
例の呪われた力か。
肩に置かれたその頑健な手に華奢な右手を重ね、刹那。
プレヌの父親の身体が宙を舞った。
床に打ち付けられたその背に、腕をねじあげる。
あいにくこちとら鍛えられている。
奴隷船の氾濫や嵐、極限の環境に比べたら、一人の男の力などなんでもなかった。
「――野郎!」
向かってくる元夫のみぞおちにすばやく蹴りを浴びせると、呻くその男に向きなおった。
氷を張った大海より冷たい視線で。
「あなたの口から答えをきかせていただけますか。今になって彼女が必要になったほんとうの理由を」
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