第174話

「少し出かけてくる。――たぶん、明日まで帰らない」

 ぴたりと、持ち上がっていたプレヌの踵が、床についた。

「また?」

 ロジェに歩み寄り、プレヌは肩にすがるように手を置く。

「危ない仕事じゃないわよね。なにか心配なことがあるの?」



 吸い込んだ息をゆっくりと吐いていく過程で、ロジェの肩の位置が下がる。

 エラー反応は更新されて、新たな段階に変わった。

 心配されることへ戸惑いが消え、残るのはほのかなくすぐったさ。



「……心配なことは一つだけ」



 かすかに目をすがめて、目の前にある額をつつく。



「きみだ」

 そのまま倒れ込むように、ロジェは額をプレヌの額に合わせた。

「オレがいないあいだ、宿から出ないって約束してくれ。――客人が訪ねてきても、部屋の扉は開けないほうがいい」



 近すぎてその目は視界に入らなくても、きょとんと小動物のように見開かれるのが気配でわかる。

「どうして?」

「どうしても」

 話した顔を努めて真剣にこわばらせ、ロジェは告げた。

「きみの家族が、きみを連れ戻したいと思っている以上油断はできないだろ」



 詳細を告げて不安がらせることは避けておくことに決めた。

「心配のしすぎよ。自分の身体もままらないくせに」

 眉をハの字にしてぼやくプレヌの顎をぐっと挑戦的に持ち上げる。



「これでも大分妥協してんだぜ。ほんとだったら、部屋に閉じ込めて鍵をかけたいくらいだ」

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