第155話
「顔色が悪いわ。どうしたの?」
「いや」
心配そうに見つめてくるプレヌに、ロジェは軽く手を振った。
無意識に視線を向けた状差しには、今朝届いた父からの手紙がある。
心身に支障をきたした商品――使えなくなった奴隷を抹殺する仕事。
船で仕事と偽り彼らを連れていき始末するその決行日を知らせる手紙だった。
あれだけは何度やっても滅入る。
命に片をつけられるのだと知る彼らの顔を見る前から、極度の疲労が襲ってくるようだ。
押し寄せる苦痛の波を押しやり、ロジェはプレヌに微笑んだ。
「だいじょうぶ。きみが心配することじゃないよ」
安心させるつもりだったのだが、プレヌは寂しそうにうつむいた。
すねたように逆さまのアーチを描いた口元が、開く。
「……エスポールからの手紙がここしばらくなくて。例の仕事中かなって思うの」
「またあいつの話か」
苦笑するロジェの傍らで、プレヌは真剣な眼差しを崩さない。
「心配するなと言われても気になるわ。エスポールも、あなたも。……優しい人ほど致命傷を負いやすいんだと思うから」
琥珀の瞳がしかめれらた。
ロジェは知らず、膝の上で握り込んだ拳に気づく。
切々と語られたその言葉が、なぜか神経に障った。
「優しいわけないだろ」
かきむしると、チョコレート色のの髪が乱れた。
――咀嚼が不能な言葉を投げかけないでほしい。
「平気で何人も殺すような奴隷管理官が」
吐いた台詞は想いのほか鋭い棘を含んでいる。
「そんな言い方」
かすかに眉をつり上げたプレヌが、顔を向けてくる。
「あなたも、社会にそぐう人が報われるべき人とはかぎらないって言ってたじゃない」
「殺人者が報われるべきだとは言ってない」
「……どうして」
はっとして、ロジェは視線を彼女に転じた。
「そうひどいこと言うの。わたしを励ましてくれた人なのに」
怒っているというより、哀しみを宿して、アップルグリーンの瞳が揺れている。
だがなぜか今だけは、指弾を止めることができなかった。
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