第10章 心を誘い出されて

第154話

 数日後、サン・ジェルマン・デプレのホテルで、プレヌは朝食を持ってロジェの部屋を訪ねた。

 カリカリのクロワッサンにバター。

 トマトと卵のサラダ。小皿にラズベリーとブルーベリー。

 彩どりのプレートと香りで食欲をそそる作戦である。

 極めつけはさくっと音をさせてクロワッサンを千切り、

「いただきまーす」

 食べる。

 さくさくさく……。



 じろと横目で見るも、中庭の望めるベランダの椅子にこしかけて、ロジェは見事無反応だ。

 吐息をついて立ち上がり、あなたも食べたら? と言おうとして、口をつぐんだ。

 彼はいつになく物憂げに視線を下げて、力なく椅子にもたれていた。

 プレヌはそっと、彼のそばに身体を寄せる。

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