第104話

 小刻みに喉を震わせる彼女を彼の苦笑が追う。

「きみの家族を見返してやりたかった。事実、言動には出さなかったけど圧倒されてたぜ。虐げていた長女の開花ぶりに」



 そして小さく付け加える。

「……嫌だったのなら謝るけど」

 まただ。

 いつでも堂々としていて、エスコートに料理になんでもこなすかと思ったら、ふいに見せられる殊勝な表情に、くすぐられるいたずら心。

 彼はどうしてこう巧みにこの心を刺激していくのだろう。



「嫌だったと思う?」

 だからプレヌは今だけは、こちらが仕かけさせてもらうことにする。

「事実でなかったのが惜しいくらいだわ」

 琥珀の目が、これでもかというほど見開かれ、かすかに彼のその頬が染まったかのように思えたとき、

「ばか」



 惜しいことに、こめかみを小突かれて、くるりと向きを変えられてしまった。

 直後、首元になにか、光るものがかけられる。

 はっとして触れると、そこには青いひし形の宝石と、それを囲む小さな真珠。

「ブルーダイヤの……ネックレス?」

「今夜のきみの勇士を讃えて」



 首筋に響く優しい声音に抵抗したく思う。

 辞退すべきだ。こんな高価なもの。

 でもついにできなかった。

 異性からの生まれてはじめての贈り物。

 求婚のためでも、求愛のためですらなく、彼女の行動に対するものだ。

 プレヌはそっと両手で、深海のような輝きを包み込む。

 そのことが誇らしくて、同時になぜか、泣きたくなった。

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