第5話

 とたんに。



「え……?」


 テレビの画面を映した視界が徐々に靄に埋め尽くされていって、とうとう見えなくなる。

 立ち眩みかと思った。

 けど、違うみたい。

 目の前いっぱいに広がったもの――よく見たらそれは靄じゃなくて、光だった。

 淡いピンク色の光が部屋全体を、そしてわたしの全身を包んで、リビングが見えなくなる。

「なに、これ」

 あまりのまばゆさに目を閉じて、もう一度、ゆっくり目を見開くと。

「え?」

 テレビ、ものすごく大きくなってない?

 見上げないと視界に画面がうつらないくらいだ。

 テレビだけじゃない。テーブルも椅子も、脚の付け根ところにやっと頭がとどくぐらい大きい。

 部屋全体が巨大化してる!?

 次に気がついたのは、自分の両手が床についてることだった。

 しかもその手、真っ白い毛がふさふさで、ピンクの肉球がある?


 さっと血の気がひいた。

 鏡。鏡を見なきゃ。

 リビングを出て、急いでとなりの自分の部屋に向かう。

 そのとき四足歩行で、しかもいつもよりずっとすばやく走っていたことにもまだ気づかなかった。

 身体全体を使って苦労して扉を開けて、巨大化している自分の机の上にある鏡を見ようとジャンプすると、想像した以上の力で高く跳んでびっくりする。

 引き出しについてる取っ手をつたって上にのぼる。


 その上にある鏡に映ったのは。

 赤い目。頭に真っ白い二本の耳。

 うさぎになってる――っ!!

 あんまりびっくりしてよろよろと後ずさってしまった。

 どんっと壁に身体をぶつけて、そのまま机のそばの窓の下へ――。


 へっ?


 わたしは急速に落ちていった。

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