第16話 ピグマリオン・コンプレックス

 量産機。

 それはストイックな「その他大勢」。

 歳を経た厄介やっかいオタクであるオレにとってその味気のなさこそが「味」だった。

 だが、30MMのラインナップに特殊部隊機や指揮官機が混ざり始めた。

 それはいい。

 元々量産機として販売されている既存きそんラインの商品を、独自に局地戦仕様きょくちせんしようや独自設定のネームド専用機に改造するユーザーは沢山たくさんいた。指揮官機用オプションパーツなんて公式から販売されていたくらいだ。

 それに特殊部隊機はプレミアムバンダイ限定で一般流通ではなかったし、一般パッケージ販売の指揮官機だってカラーリングと角の差くらいでそこまでスペシャル感はなかったから、すこーし引っかかりつつもまあまあそういうのもアリではあった。シリーズが人気を保つためには、既存きそんファンに目配めくばせしつつ、新規を取り込む工夫が必要だなんてことは、こっちもとっくにに落ちている。オレは好きなレーベルの成長を喜びつつ、新商品を楽しみにしていた。

 そうしているうち、30MMに兄弟レーベルができた。

 いや、姉妹レーベル、というべきか。


 30ミニッツ・シスターズ


 それは、30MMのノウハウと共通ジョイントを持って生まれた「組み立て美少女プラキット」のシリーズだった。

 これもスマッシュヒットと言って良かった。

 他社の製品が軒並のきなみ5000円〜7000円前後をバリューゾーンとする美少女キットの業界に、30MSは税込2530円で殴り込んだ。

 正直、一時期はガンプラ以上に売れていたように見えた。何せキット現物を全く売り場で見かけない。30MS発売直後の人気の加熱ぶりは30MMのそれ以上だった。

 個人的には複雑な思いだった。

 あけすけに言ってしまえば、オレだって美少女キットに全く興味はメチャクチャある。

 今まで、特にメカを着込んだりしてるタイプの美少女キットやフィギュアは熱い視線で横目に見ていた。

 結婚前は値段の高さを言い訳に、結婚し子供が出来てからは妻や子供への体面を盾にして、これまで横目熱視線を送りながらも手を出さずにいた美少女キットのシリーズが、オレの愛してやまない30MMのレーベルから、破格の値段で出てしまった。

 買いこそしなかったが新商品については細かくチェックし、だがこれはオレのフィールドじゃないと自分に言い聞かせ、オレは今までのオレを守って30MMレーベルの新商品発表配信を待った。


 ところが──。


 バンダイホビー事業部は予想だにしない方向に舵を切ってきた。

 ウマ娘プリティーダービーのトウカイテイオーの販売、アイドルマスターとのコラボ。 

 伝説のロボットバトルアクションゲーム「アーマードコア」シリーズ登場機体の30MMからの発売。

 そして、異世界ファンタジーをテーマとした新レーベル、「30ミニッツファンタジー」の展開。

 

 ……量産機は?


 いや、いいよ。そりゃウマ娘・アニマス・アーマードコア好きな人には激アツでしょうよ。ハイクオリティなキャラクターキットがお手頃お値段で手に入るもんね。売れるでしょうさ。商売だもんね。大事よ。っていいうかメーカーさんにとっちゃそれが全てよ。それが正義よ。


 ……量産機は?


 ストイックな「その他大勢」は?

 味気ないからこその「味」は?


 模型ファンたちの熱狂をよそに、30MMレーベルの初期コンセプトに惚れ込んでいたオレは、都会に行って変わっちまった初恋の先輩を見るような気持ちで背中を丸めていた。

 なんだよチクショー。

 30MMがネームドのキャラもんを売るなら、それはもうそのジャンルのHGやんけ。(厄介オタクムーブ)


 しかし、バンダイホビー事業部は、やはりオレたちの味方だった。

 量産機の静かだが力強い脈動は途絶えてはいなかった。


 カクカクとした箱っぽいボディ。

 短い足とドッシリしたシルエット。

 工業製品然としたモールドと、効率至上主義を体現したような3本指のハンド。


 「現行人型兵器の一世代前の機体」というサイドストーリー妄想のはかどる設定をひっさげ、アイツはオレたちの前に現れた。


 1/144 e-EXM-9 バスキーロットだ。

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模型戦士マサハル 木船田ヒロマル @hiromaru712

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