第65話

あたしが背を向ける体勢になるドアがいつのまにか開いていたようで、ソファに腕をつかれて身体の重心が後ろへ引かれる感覚と共に、首筋に声が当てられる。


静かにもう一度、絶たれたルイへの視線を送ると。



彼はすっかり何食わぬ顔をして、ソファに身体を埋もれさせて漫画を読み直していた。切り替え早い。




「まーた俺の書いた物読んで泣いてたんだ?」


「え、なにが?何の事?」

「何が?」


「……チッ」



屈めていた体勢を戻した環は、「そりゃどーも」と口遊みながら白い服を腕まくりした。


「波音、今日入りだった?」



「んー、そう。撮影の後、相沢さんが迎えに待っていてくれてそれで用があるとかでここさっき来たけど。ルイは知らない。あたし来たときにはいたわ」




見上げる環はちら、とルイの方を見て適当に頷いた。


ルイは相変わらず漫画に読み耽っている。



「環、前髪伸びたんじゃない?切らないの」

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