第54話

「見たなら分かると思うけど、俺寝てたんだよね、今まで」

「え?そうだったんですか?」


「え?」



ちょっとよく分からない。じゃあ目瞑ってる俺を何だと思ってたの。あれだと?息が止まってるとでも?




「……庵さんはやっぱり、俺たちが来るのいやですか」



急に声のトーンを下げて口にされた言葉に、ふと表情を止める。


「きらい、なんですか」





「……お前らの、事務所のこと?」


「はい」



窺うように頷く啓を目の前にして、あー、啓、知ってるのかって、思った。


だから、そりゃまあ、と続ける。




「嫌いに決まってる。だいきらい」





謳うように口にした言葉に、啓は小さく息を止めた。

それから、小さく息をかみ殺した。


それで。




「うそつきですね」




そう、微笑んだ――――。








(ううん。嘘じゃ、ないよ、)



「大嫌い」

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