第41話

「すみません」



大きな身体を折りたたむようにして謝り、バケツを受け取る。灰色のエプロン胸元に、【猫舌】と書かれた名札が付けられていた。



「あー、苗字?珍しいって言われますけど本名なんです」




へえ、と視線を上げると目が合って、まじまじと見つめられて引く。


「どこかで見た気が」



唇を結んで視線を逸らすと彼は屈めていた身体を元に戻し、ふーむ、と唸っている。




「い、ぬかい」




こっちは勝手に名札見ちゃったし、や、見られるために付けてるのはこの人だけど。


どうせばれると思ったし。


隠しておくのも罪悪感があった、から。



躓きながら名前を口にした。




「えと、ごめん。俺んちテレビないから判らないんだけどもしかして、それってテレビの人って言ってる?」

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