第21話

「丁度…いや、どっちみちと言うべきなのかな。彼――乙姫にも聞かれては困る内容だったからよかった。改めて、瞬。私は樫月(Kashiduki)という者だ」



ギ、と椅子を軋ませて、右隣に立っている俺の方へ身体を向ける樫月さん。


妖艶な笑みのまま座れとも言わずに続く。




「分かっているとは思うが、"双方に"利益が生じるから君に頼むことにしたんだ。何せうちの子供たちは癖のある大人ばかりだからね」




それに、ふうん、と哂う。




多分この人は、俺が脳裏でずっと追いかけている事実の少しを知っている。


知っていて、この話を持ちかけたのだろうと思った。



だから俺は、乙姫の前で、知らないふりをした。乙姫は知らないと分かったから。





「――…暴けるかな、彼等の心の傷を。こっちにも支障が出るからね。手を回すにも回せないんだ」





「大丈夫だと思いますが」





だって、



俺もまた、秘密を隠して哀しく哂うのだから。

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