第20話

「君が、宇乃くんか」



「はい」




そう短く答えると、彼はふと瞼を伏せる。それから手にしていた本を閉じ、彼の左手側にかかった壁掛け時計に目をやった。


「すっかり日が落ちてからで申し訳ない」




俺はその場に立ったまま、彼に続いて時計を見ることもせずただそこにいた。




すると階段を上がってくる足音が聞こえ、続いてすぐに外から扉が開けられ。



「お話し中すみません乙姫さん。ちょっといいですか」



そこから、テレビや雑誌で引っ切り無しに見掛ける顔が覗いた。




「シオミ」



シオ、ミ。


そう呼ばれた男は目が合ったあと、それ――アイドルらしい笑みを向けて出て行った。



社長に視線を合わす乙姫というやつは頷きを残し、シオミについて会議室を後にした。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る