第19話
そうは言っても今日行く気分じゃなかった俺は、辺りが薄暗くなった頃、龍に部屋から蹴りだされて結局。
名刺に書かれた住所とスマホを頼りに指定の場所へ赴いた。
入口に立つ前、小洒落た建物の二階から顔を出した昼間の男が、愛想よく手を振って三階に行こうと声を出した。
入ってすぐの階段を上がると二階で再び会った男に付いていき、三階の広い部屋へ通される。
重い扉の目先にはまるで晩餐会でも開くのかと言いたくなるほどの会議室と呼ばれる部屋が広がっていた。
そういえば、階段の手すりも物が良かったように思える。
ここも上座から続くテーブルは凝っていた。椅子はシンプルな現代物だが、昼間から色を変えそうな形の照明が頭上でオレンジ色の明かりを灯している。
「社長、彼が――宇乃瞬くんです」
草臥れた声で乙姫と名乗った人間が告げると、表紙に仏語で題字が綴られた分厚い書物から、四十代ほどに見える男がゆっくりと顔を上げた。
その人は眼鏡を外し、美しい漆黒の眸を細めた。
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