ここはテンプレ部の部室。今日も部室にはいつもの３人の部員が集まっている。

　「入学式での当たり屋作戦は未遂に終わった。悲しいかな新入部員はまだ一人も来ていない。なので、早急に次の手を打たなきゃいけない」宮前部長が言った。宮前志保――私の所属するテンプレ部の初代部長。３年生。見た目はクール・ビューティーって感じだけど、ちょっと、いやかなり変わった人だ。

「すみません。私が新入生に突撃出来なかったばっかりに……」私こと、鳴海瑛子は言った。作戦としては無理筋だった気もするけど、勧誘のために玉砕覚悟で行くべきだったのだろうか、と今は思う。

「あれはしょうがないよ。状況が悪かったし」美優ちゃんがこちらを見てフォローしてくれる。夏目美優――私と同じテンプレ部の2年生。金髪のボブカットの彼女は、キレイで、モデルみたいな女の子だ。私のことを優しくフォローしてくれる。

　私たちテンプレ部は、部の存続に必要な合計5人の部員数を確保するため、なんとか新入部員を2名確保しなければならない。しかし今のところ、その進捗は芳しくない。今日は前回の失敗を踏まえた反省会だ。

「ところで、私たちは正攻法の勧誘はしないんですか。ポスター貼ったり、普通の勧誘すれば多少は人来ませんかね？」私は宮前部長に訊ねる。

「正攻法でこの部に人は集まらない。断言する」宮前部長が断言した。断言されると、頷くくらいしかできない。

「うーん。じゃあどうしましょ。このまま何もしなくて人、来ますかね？」美優ちゃんが言った。

「部活動の一覧には部室の場所も載ってるから、可能性もゼロじゃないと思うけど、どうだろね」私は言った。

「仮に部室に迷い込んできたときは、強引に入部させちゃいましょう。騙すなりして。夏目、鳴海、頼んだよ」宮前部長が言った。

「了解です。ちなみに入れるのはもう誰でもいい感じですか？」美優ちゃんが言った。

「理想を言えば、少しはテンプレ的な要素が欲しいよねえ。チートスキルがあるとか」宮前部長が言った。

　宮前部長はどんなチートスキルが欲しいのだろうと私は思った。

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　部活動。それは高校生活における重要なファクターだ。どの部に入るかで高校生活が決まると言っても過言ではない。

　ふうむ。なんとも言えんな。と俺は部活の紹介パンフレットを見ながら思った。厳しくもなく、人数は多すぎず、楽しく高校生活を遅れそうな部活はどこだろうか。

　中学から一緒の友人に誘われている弓道部、バドミントン部、文芸部……この辺が候補だろうかか。しかしどこもいまいちピンとこない。

　パンフレットを読み進めていくと、隅に記載された「テンプレ部」という文字が目に留まった。テンプレ部……？　テンプレ部とはなんだろうか。他の部活と比べて明らかに異質だ。何をするのかさっぱりわからない。野球部は野球をするが、テンプレはするものでは無いはずだ。

　ただ、俺はその「テンプレ部」という異質なものに興味をそそられた。このまま悩んでいても仕方ないので、俺はとりあえずとりあえず見学に行ってみようと思った。もし何か違うと思ったら、入らなければいいだけだ。

　放課後。テンプレ部の部室は特別棟の3階にあった。俺は扉をノックする。すると金髪の女の子が出てきた。

「見学したくて来たんですが……」俺は控えめな声で言った。

「お……入部希望っこと？　とりあえず入って入って」俺は彼女に室内に促されて、パイプ椅子に座る。夏目さんもパイプ椅子に座った。

「2年の夏目。よろしくね」夏目さんはにっこりと微笑んで言った。

「1年の瀬田です。宜しくお願いします」俺は言った。

「入部希望？」

「いや、入部希望というよりは、ちょっと見学したくて。どんな部活なのかなって」俺がそう言うと、夏目さんが「なるほど。じゃあ早速だけどここに名前書いて」と、入部届と書かれた紙を渡してきた。

　短い会話の中で「見学」と２度口にしたが、夏目さんには伝わっていないようだ。見学見学言うのも失礼と思い、仕方なく俺は入部届に名前を書く。

　「よし、書いたね…… じゃあ、テンプレ部にようこそってことで、改めてよろしくね」夏目さんは何かを成し遂げたみたいな素敵な笑顔で言った。俺は少し不安になる。

「早速だけど、ちょっと質問していい？」夏目さんはそう言うと、いそいそと机の引き出しから紙を取り出した。何かのチェックシートのようだ。

「名前は……瀬田透くんね。クラスは何組？」

「C組です」

「C組ってことは担任は……」そう言いながら夏目さんが０と書いた。

「教室の席ってどのへん？窓側とか、廊下側とか」　

「真ん中の前らへんてすね。教卓の近くです」俺は言った。

　いったいこれはなんの質問なんだろうか。夏目さんの手が動き−１と紙に刻まれた。それからいくつかの質問がされたが、夏目さんの手は０、たまに１、まれにマイナス１を記していった。

「うーん……」夏目さんは足を組んで、手を口元に当てた。短いスカートで足を組まれると、俺としては目のやり場に困る。

「なんともいえないけど……まあこれから育ててけばいいか……」夏目さんが呟いた。

「あの、ちょっと質問していいですか？」俺が尋ねると、「どうぞ」と夏目さんが促す。

「この質問って何なんですか？ゼロとかイチって……」俺はさっぱり状況が飲み込めないので訊ねると、夏目さんはニヤリと笑って答えた。

「君のテンプレ力を測っていてね。ここ、テンプレ部でしょ。ここでは、高校生活において存在するありとあらゆるテンプレ展開を実践する部活なの」

「なるほど」そういう部活だったのか、と俺は思う。

「セタ・トオル」夏目さんが顎に手を当てて、ゆっくりと俺の名前を言う。

「はい」俺が返事をすると「苗字は西園寺とかが良かったんだけど……」と夏目さんが言った。

「西園寺ですか……」戸惑いながら俺は答える。

「うん。やっぱりかっこいい苗字のがいいでしょ。担任は美人がいいし、席は窓側でしょ。テンプレ主人公ならさ」夏目さんが言った。

「そういうもんですか……　期待に添えずすみません」苗字は西園寺じゃなく、美人の担任もおらず、教卓の前に陣取ることしか出来ない俺は言った。

「でも大丈夫。こういうのは後付け設定とかで何とでもなるから。自分を、ついでに苗字も変えちゃおう」夏目さんはさらりと言った。