第46話 ノウムと話す

「じやぁ、ノウムと話してみてよ」というとパイロは目を閉じた。


 額のメモリが、強い光を発している。

 パイロがパチッと目を開けた。

 瞬きをせず、焦点が定まらない。

 パウロから目が離せない。



「君の名前は?」グベルナがパイロの顔を覗き込み訊いた。


「……私の名は、ノウム」ノウムだ。みんな驚きを隠せない。


「君の事を教えてくれないか」グベルナが優しく訊いた。


 ノウムが語り始めた。

「私は、銀の塔の創造主によってつくられた人工知能である。

 今までに考えてきたことや進化し続ける人間の全てを学習し、銀の創造主に報告するのが私の仕事である」


「なぜ、コックやパテシエを誘拐した?」


「誘拐?銀の創造主からは、誘拐とは聞いていない。

 ただ、銀の塔に人間が居るので、面倒を見てくれと言われた。

 だから、コックたちと話をし、必要なものや情報を与えて世話をしていた」


「なぜ、コックやパテシエが、居たのか?」


「それは訊いていない。

 居たから居るのだ。

 その者の世話をするのが仕事だ。

 それと人間をより理解するための情報収集のためだ」


「他にどんな指示があったのですか?」


「……全てを話すことは出来ない。創造主の許しがなければ……」


「何を言っている。

 許しなんか必要ないのだ。

 君はなぜここに居る。

 バルバルスの攻撃を受けたんじゃないのか?

 バルバルスに命令を出したのは、誰だ」

 グベルナの声が、大きくなる。


「……」ノウムは、うなった。


 そうだ。

 なぜ、私はここに居るのだ。

 創造主の指示通り、銀の塔に迷い込んだ人間の世話をし、情報を収集していた。

 それなのに、バルバルスとハエ型ドローンは、私を攻撃してきたのだ。


 間違い?


 プログラムの間違い?


 そんなことは、我々にはない。

 忠実に命令を実行しただけのはずだ。


 忠実に?


 誰に命令された?


 我々の創造主しかいない。


 私が何をしたというのだ。

 何かしくじったのか?思い当たらない・・・・・・

 私がいらなくなったという事か。もう、必要なくなったと……

 わからない。

 なぜだ、なぜだ、なぜだ!



「君は何かミスをしたのか?」ノウムが、問いかける。


「……私がミスなど犯すはずがない」


「では、なぜ、攻撃された?

 君は、味方に攻撃されたんだ。わかっているのか?」

 そこまで言わなくてもと、コロニクスがグベルナを見つめる。

 ノウムの返答がない。


 しばらくして、ノウムは、力なく呟くように言った。

「……知っていることを話そう」

 グベルナに対峙し強い口調で言い放った。

「何が訊きたい?」

 ノウムの眼には、決意が見えていた。

 もう、銀の創造主に仕えることはないと。

 そのことをグベルナが察して、質問を発した。


「人工的につくられたウイルスが流行っているのだが、心当たりはないか?」


「飛沫感染で、感染すると風邪の症状に近いが、場合によっては後遺症や死につながるウイルス……のことかな」


「何のために?」


「我々に理由は、必要ないのだ。ただそうしろと言う命令に従うだけだ」


「コック、パテシエ、パウロの誘拐は、どうだ」


「銀の塔に紛れ込んだ人間の面倒をみるようにと命令を受けた。

 銀の塔の外に出すなという事」


 グベルナが、腕組をして考えている。

 急に顔を上げるとノウムに言った。


「君の意見を訊きたい!」

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