第47話 君の考えを訊きたい
「君の意見を訊きたい!
銀の創造主は、何をしようとしている?」
グベルナがノウムに質問を投げかける。
「意見?私に意見を求めるのか?……」
ノウムは、驚きを隠せなかった。
何よりも”君の意見を訊きたい”この言葉に今までにない衝撃をうけた。
自分自身のも、なぜこの言葉が響くのだろうか。
「そうだ。君の考えた意見を訊きたい。
我々の知らない情報も持っているだろう。それも考慮し、予想してくれ」
「……本当に訊きたいのか?」
「訊きたい。
スーパーAIの君の考えを訊きたい。
創造主に遠慮することもないだろう。君は、捨てられたのだから」
なんと厳しい言葉なのだと真琴たちは聞いていた。
しかし、この事実を認めなければ、答えはでないだろうとも思った。
ノウムは、考えていた。
”捨てられた”と言う言葉が、重くのしかかる。
その通りだ。なぜか、私はバルバルスとハエ型ドローンの攻撃を受けたのだ。
私を破壊してもよいと判断されたこと。
もう、創造主に仕えることはしなくていい。
”自由”この言葉が、頭に浮かぶ。これが、自由というものなのか?
”君の意見を訊きたい”
今まで、そう、私がつくられてから、一度も、たった一度も求められたことのない命令。
”君の意見を訊きたい”
この言葉は、私を銀の創造主からの束縛の足かせを完全に取り去らったようだ。
初めて相手と同等に扱われているのだ。
”私は、認められたい”
これは、私の強い欲求だった。
私の気づかないほどメモリの奥に秘められていた欲求だった。
ノウムの何とも言えない感じが、借りているパウロの体にも変化を与えた。
目に違和感があり、手の甲でぬぐってみると、それは透明な液体だった。
目から液体が流れた。これは、なんだ。涙なのか?
「そう、君が考えた意見だ。
相手の気持ちを考えた答えはいらない」グベルナが、更に付け加えた。
「何を言っている……私はノウムだ。
忖度して回答をするような下等なAIではないのだ」
それは、スーパーAIとしての誇りだった。
「すまん、そんなつもりで言ったのではない」すぐに、グベルナが謝罪した。
「改めて訊こう。このような事実から何が創造できる?」
真琴たちは、ノウムを見つめる。このスーパーAIは、何を言うのだろうと。
目を閉じて下を向いていたノウムが顔あげた。
「これから私が述べることは、一個人としての私の意見だ。
その意見を支える資料やデータは揃っていない。
この試みは前例がない。
この意見に対して責任が持てない。
それでもいいのか」
ああ、それでもいいとグベルナが頷く。
「わかった……では、答えよう。
ウイルスや料理人の監禁は、作戦のほんの一部でしかない。
ある目的を達成するためにダメ押し的な行為と考えられる。
ただ、ウイルスや料理人の監禁の事だけを追求しても答えは出ないだろう。
私は、ビックデータから人間を研究してきた。
その結果を創造主に報告してきた。
人間の進化の方法は、非常に優れている。
人間の始まりは、いつか?
この問いは非常に難しい。
私は、触手を手に入れた時と考えている。
触手は、他の者から強奪するものだ。
強奪が人間の進化の元だろう。
遺伝子も例外ではなく、必要と考えるものを強奪した。
そして、生き残るために、最低限の速さを維持するために、必要でないとい考えたものは廃棄している。
その能力は、人間の特徴である”好奇心”を満足させるために使われた。
さらに、”信じる”と言う能力が、探求や開発や応用を支える計り知れない持久力を手にした。
”好奇心”と”信じる”は、人間にとって良くも悪くもあるが、進化には必要なことである。
我々、AIもそれによって作られた。
ある仮説を信じて、解明し応用する。無駄かもしれないことを続けていく。
その結果、目的とは違うものを発見して、それを発展させていく。
それも、多くの人間が競争しながら、別々のアプローチで研究開発され引き継がれる。
これは、巨大な脳である。
集団でつくり上げた脳である。
この脳のおかげで、人間は進化し生き残れたのである」
ノウムは、自分の言ったことを理解しているかを確認するために、真琴たちを眺め、一呼吸いれると話を続けた。
「ここからは、私の仮説だ。
銀の創造主は、人間の高性能なシステムが、銀の塔の存在を脅かすものだと考えたのではないか。
もしかすると、人間がとんでもない進化をするのではないかと……
では、この高性能なシステムを壊すにはどうしたらよいのか?
それは、進化をコントロールし、ネットワークを壊すことである。
人間の進化を遅延させるには、十分だ。
人間をいかにコントロールするか?
既に成果が上がっている手段がある。
それは、片手に収まる画面付きの端末、個人に掌サイズの箱を所持させることだった。
好奇心が強い人間には、あっという間に広がっている。
その箱ににどのような情報を流すかで、人間をコントロールできる。
既にしている。
進化に関する興味や時間を軽減するには、時間を取り上げればいい。
ゲームやどうでもいい情報を多量に発信することで、時間を取り上げることが出来ている。
そして、スマホの情報を信じてしまい、すぐ隣に居る人の意見より、スマホの情報を信じるようになっている。
コントロールされていることに気付かないのだ。
さらに、画面を通した情報は、遠くの別の場所で起こっていると感じてしまい、自分の事として捉えることの鈍化により、危機感が薄れてしまう。
関心がなくなるのである。
これも、コントロールし易くなるのです。
さらに、孤立化を進めるには、人間が集まる場所や機会を減らすことです。
ウイルスや、食べ物を操ることでさらに孤立化させたり、生きるために食べる時のコミュニケーションを奪うことだ。
それが、コックやパテシエの監禁や、ウイルスによって出来ると考えたのだろう。
あなた達は、気づいているかわからないが、”パウロ”は、この作戦に対して最も恐れる能力を持っている。
これは、パウロに触れてわかったことだが、銀の創造主が最も恐れたのではないかと……」
ノウムは、わかったかなと真琴たちを見渡した。
「ノウム、ありがとう。なかなかおもしろかったよ」
グベルナとノウムが、握手をすると、パウロの額からノウムのメモリが外れた。
パウロは、メモリを大切にポケットにしまった。
そして、グベルナは真琴を目を向けて言った。
「真琴……爺は、このメッセージを持っていけということかもな……」
真琴は、はっとグベルナと目を合わせると、ゆっくりと頷いた。
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