第6話

願わくば、一生忘れていて欲しいし、忘れてしまいたい。



「……砂、砂ってば」



「へ?」



間抜けな返事に、またしても真柴の呆れた表情が目の前にあった。



「大丈夫なの、あんた。ちょっと顔色も悪い気がするけど……マジで調子悪いの?」



「いや、ない。大丈夫」



片言で返す私に真柴の顔は全然納得してないことが分かる。



だけど、今その事情を話す余裕もない。



後で話しておくか。



一人くらいは事情を知ってくれている人がいれば、楽かもしれない。



そう思い真柴を振り返った直後、狭い出入り口で後ろから地味に押されてしまう。



おわ、危ないしっ。



心の中で思わず声をあげつつ、足取りを気にして部屋の外を目指す。



それでもなんとか無事に広い廊下へ出たところで、急に手首を掴まれて、咄嗟に腕を引いた。



「!?」



釣られてきたのは、誰かの手。



がっしりとした骨太の関節、男性の手。



「……リン、?」



その声にビクッと肩が震える。

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