第14話

「しつこいとやめる」



「あ、しつこくしない。うん。だから、帰ろ一緒に」



へへっ、と笑えば呆れたように見下ろされる。


でも嬉しくって仕方ない。


カゴに入った◯ろはすを自分のカバンに押し込むと、彼は空になったかごを指差した。



「?」



「荷物、入れれば?」



肩から下げていたバッグを入れるように言われて、上ずった返事を返しながらバッグを自転車のカゴに入れさせてもらった。


矢崎くんのバッグは、リュックみたいに背負っている。わざわざ私のバッグを載せるためにカゴを空けてくれた?



「ありがとうございます」



その優しさが嬉しくて、素直にお礼を言うと、矢崎くんは「別に、」と素っ気なく返して来た。


リーチの違う私達の歩幅は、彼が合わせてくれたおかげでさほど開きもせず、ほぼ並んで歩いている。



「もうすぐ卒業だね」



「あぁ」



「早いよねぇ、あっという間だもん」



「そ、だな」



専ら私が話を振って、彼は相槌程度に答えていた。


共通の話題なんてないから、何を話していいか分からない。


つまんない女だな、私って。


訪れる沈黙のたびに自己嫌悪に陥りながら、それでも笑顔だけは絶やしたくなくて、必死に笑っていた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る