第12話

「◯ろはす、好きだよね。特にサイダー」



◯ろはすのサイダーがある自販機でよかった。せっかく奢るのなら、彼が喜ぶものがいい。



「……ありがとう」



言って彼は早速蓋を開けて飲み始めた。


男の子特有の喉仏が、上下するのが色っぽくて好きなんだけど、ダメだ!矢崎くんのは見ていられない。なんだか無性に恥ずかしい。


視線を逸らして所在無げにしていると、矢崎くんは自販機に近づいて小銭を入れ始めた。


え、足りなかった?


驚く私を振り返り、視線で何かを訴えてくる。



「ミルクティーでいいのか?」



「え、?あ、うん?」



まさか私に買ってくれるなんて思わなかった。

しかも、彼の選択は私がいつも飲んでいる定番中の定番。


ホラ、と渡された缶は温かかった。



「あ、ありがとう。あったかい!」



そう口にした私を、矢崎くんはホッとした様に見た。


だから、分かってしまった。


彼が大好きなテニスを早々にやめて帰り始めた訳を。


両手に包み込んだ缶の熱が、じんわりと伝わって人心地ついたことが決定打になった。


私の事、心配してくれたんだ。


寒い中ただ座って見ているだけの私の身体を。


図々しい考えだけど、多分間違っていないと思う。


何も言わず温かいミルクティーを選択したのは私じゃなくて、彼だから。



「じゃ、帰るわ、」



半分以上残った◯ろはすを近くにとめてあった自転車のカゴに入れて、背中を向ける彼。


これで、終わり?


もう少し一緒にいたい。


……図々しいついでに一緒に帰りたい。

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