第52話

冥界に……地獄に……刹鬼様だけを行かせるー?


本当に、冗談ではない。



「奥様、俺っ、俺も居るッスよっ」


「私は、如何なる時も奥様とともに」



真鬼がわたくしを見て笑う。


わたくしが決めたことなら、地獄だろうとついていく、と。



「ありがとう、真鬼」



わたくしも微笑んで真鬼を見る。


でもすぐに睨むように刹鬼様を見つめる。



愛しい愛しい旦那様。


刹鬼様の言われることはなんでも従いたい。


でもこれだけは駄目です。


承知致しかねます。


あんな魑魅魍魎で溢れかえる、何が起こるかわからないような場所にお一人でなど



「いや、だから」


「丁、俺は」


「わかっております」



わかってはいるのです。


刹鬼様が病み上がりのわたくしを心配してくださっていることは。



「だったら」


「嫌です」


「……」


「っっ」



困り顔の刹鬼様。


そんなお顔をさせたいわけではないのです。



「約束をお忘れですか?」


「忘れるわけがない」



祝言の時に約束をした。


死が2人を分かつまで共に居る、と。


離れない、と。


そしてわたくしに至っては、刹鬼様が亡くなられたらすぐさまに後を追います。


刹鬼様の居ない世界などわたくしには意味がないのです。



「わたくしはもう大丈夫です、刹鬼様」


「旦那様、私が必ず奥様をお守り致します」


「俺も居ます」


「真鬼。多鬼……」



真鬼と多鬼が援護してくれる。


二人ともわかってくれているのだ。



「刹鬼様」


「「旦那様」」



わたくし達に詰め寄られ、天を仰ぐ刹鬼様。



「俺の側を絶対に離れるな」


「「「!!!!」」」


「もちろんです!!」


「俺を守るより、自分の身を守れ」


「……」



それはちょっと……


なんて思っていたら睨まれました。



「……善処致します」


「ま・も・れ」


「……はい」



負けました!!


負けました、わたくし!!


まっ無理ですけど。


刹鬼様をお守りしないなど、無理ですけどね。


だってきっとその時がきたら体が勝手に動きますもの。


刹鬼様を守るために。

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