儚く、繋がる



同じ道で帰るようになってから

帰り道が楽しくなったんだ。



◯◯◯



「おーい、今日早めに練習始めるってさ」

「まじで?あざーす」


 同じ部活で、隣のクラスの照山春に部活の連絡を伝えた。

 私はバスケ部マネージャー、春は選手。

春だけ違うクラスで、同じクラスの選手たちにはみんな伝えたから、こうやってわざわざ違うクラスにまで伝えに来た。


「そーいやさー、今日の練習早いなら帰りも早い?」

「それはしらない。いつもどうりじゃないかな?」

「うへー、時間だけ長くなるのかよー」

「バスケ、がんバスケ」

「誰だよ今くだらねえダジャレ言ったやつ」


男子の群れがドッと笑う。

相変わらず元気だな。


「で、琴葉は今日なんでハーフアップ?」

「部活前はポニテにするよ、今は気分」

「なんだオシャレに目覚めたのかと思った」

「それ私がダサいって言ってる?」


また笑いが起きる。

次は、私も笑ってしまった。

 この空間が、案外好きだったりする。

女子も男子も関係なく、話せるこの感じが。


「あ、チャイム鳴るから、またね」

「おー、ありがとー」


 駆け足気味にクラスに戻り、友達と喋る。

 受験期でもう秋になった今、まだバスケ部は続く。

春高までは残るという、3年生選手たちの熱い想いから、マネージャーである私も残ることにした。

 だからこそ、忙しいけど充実していて、楽しいのだ。


 そして部活終わりは、よく春と共に帰る。

同じ帰り道だから、というのが大きい。

私は駅で別れるから、それまでの十数分だけだけど、それまでは二人で帰っている。

 噂されたりはするけど、そんな感情はないからなんとも言えない。

ていうか、そんな感情がどんなのなのかわからないから、余計にわからない。


なので、適当に受け流している。


「おーい、琴葉準備できたー?」

「うん、できたよ」

「じゃあいくぞー」


部室から出て、裏の階段を降り、裏門に向かう。

途中で友達とか先生に会えば挨拶をして、または手を振ったりして。

ゆっくりとしたテンポで歩みを進める。


「そーいえばさー、最近あの人とどーなの?」

「あの人って?」

「勉強教えてもらってるーっていう、大学生の人」

「あー、晴夏さんね」

「そそ、結構順調?」

「んー、そりゃまあ大学入試に必要なこと教えてもらって、んでそこの対策とかも…」

「お、じゃあけっこーイイ雰囲気なんじゃん!」

「イイ雰囲気ってなによ、別にそーいうのじゃないから」

「またまたー」


ケラケラ笑いながらからかってくる春。

こーいうところは、ほんとに変わらない。


「ていうか、恋愛感情とかよくわかんないし」

「あー、それは正直わかるわ」

「別にみんな友達でよくねー」

「…まあ、たしかに」


なんで、みんな恋愛にしたがるんだろう。


面白いから?

楽しいから?

言われる方の気持ちは?


友達として接してるだけで、なんでも恋愛ちされるって

少し生きずらいよなぁ。


「まあまず琴葉にそんな相手ムリだろ笑」

「言ったな?このこのっ」


肘でつついて、それに春がオーバーリアクションで痛がる。

このくらいの関係が、1番いい。

春といるのが一番、居心地がいい。


「もし面白い展開あったら言えよー」

「そっちこそ、なんかあったら言ってよ」


駅前に着き、手を振る。

春はこのまま駅前を真っ直ぐ通るから、ここでお別れだ。


「じゃ、また明日ー」

「またなー」


春の、優しい花の香りがほのかに香る。

この匂いは、割とすきだ。



○○○



駅前を通り過ぎて、夕陽に照らされた道路を踏み締める。

遠目に、俺、照山春の実家の花屋がみえるけど、そこに行く前に左に曲がった。

小学生と中学生くらいの数人分の声が聞こえてくる。

そんで、1番透き通るように大きな声が耳に入ってきた。


「そーら!つかまえたー!」

「うへー、蒼姉はええよ!」

「毎日遅刻ギリギリダッシュしてるんだからねー」

「俺の方がえらい!毎日10分前には着くもん!」

「俺も!」

「私も、15分までにはつく!」

「まずいな、小学生に負けてしまった」


笑い声とともに、賑やかな空気に包まれる。

少しすると目が合って、完全にこちらに気づいたみたいだ。


「お、春くん!来たね」

「春にぃ、蒼姉っていつもギリギリなの?」

「春にぃはどんくらい?」


わらわら集まってきて、質問責めされる。

この瞬間は結構すきだったりする。


「俺は朝練あるからなぁー、30分前とか?」

「はやい…!」

「俺より早い…」

「すげぇ…」

「ちなみに蒼はこの前10秒前だったぞ」

「えっ、春見てたの!?」

「先生が10秒前って言ってたの聞こえた」

「うそー!」


絶望したかのような顔をして、嘆き始める。

それに同情したように小学生から慰められる少ない姿は、滑稽だな笑


「ほら、バスケボール持ってきたぞ。」

「やったー!」

「ドッジしよー」

「バスケしないのかよ」


小学生たちが集まって、ジャンケンし始める。


俺と蒼は、この公園でこの子達と一緒に遊ぶ、まあ保護者みたいなものだった。

「ドッジしよー」と言ったやつが蒼の1人目の弟で、中学一年生。

「はやい…!」と言ったやつが青の2人目の弟で、小学二年生。


ここには、バスケゴールが設置されてあるから、それで練習しようと思ってきた時に、この3人に出会った。

それからというもの、楽しい雰囲気を嗅ぎつけたちびっこ達と遊ぶようになって、今に至る。


ちびっこ達は体力無限で、自由奔放だから一緒に遊ぶのは体力がつくし、楽しいし。


本当に来てよかった。


「春は、家帰らなくていいの?」

「別にちょっとくらいなら大丈夫だって」

「そっか、じゃあ部活の方はどう?」

「そろそろ大会あるんだよ、結構デカめの」

「まじで!すごいじゃん!」

「見に来る?」

「ええ、私でいいの?」

「蒼くらいじゃん、近所でこーやって話すの」

「そーかー」


軽い会話の終わり。

少し冷たい風が吹く。


もう、冬か。


「…冬になったらさ」

「?」


「多分、私たちはもう遊ばなくなっちゃうのかな」


蒼のサラサラとした髪が風に撫でられて

ふわりと踊り出す。

少し、寂しげな姿に

思わず問いかけた。


「なんで?」


すると、ゆっくりとこちらを向いて、微笑んだ。


「暖かい春が来てさ」

「快晴の空と蒼い海が見える夏が来て、落ち葉が舞う秋になった。それから次は冬。」

「みんなが、新しくなっていく準備の期間でしょ?」

「…まあ、そうだな。」

「だからさ」

「また新しい人に出会って、誰かと一緒になって、はたまた恋に落ちたり、または離れたりして」

「みんな今の関係の大切さに気づかないんだよ。」


キャハハ!

小学生たちの笑い声が、日の落ちかけた公園に響く。

この子達は、まだこの先の未来を知らない。


「だから、多分、離れちゃうかもなーって。」


子供たちの方に向き直った蒼。

誰も知らない、気づかない、分からない。


でも、それでいい。


「俺たちはもしかしたら、出会わなかったかもしれない」

「もし、俺がここを選ばなかったら、蒼たちがここで遊ばなかったら、ここにバスケゴールがなかったら、もっと言えば」


「「生まれてこなかったら」」


声が重なる。

お互い、目を合わせた。


そして、吹き出す。


「授業でやっただろ"出会いは別れの初め"って」

「あったね、そんなの」

「そんなに気にすることないんじゃないか?

縁があればまためぐり逢うって言うし」

「…そーだね、たしかに。」

「ほら」

「"感謝を忘れず、明日の希望と活力を持って、変化を大切にする心を想いとして、秋風に乗せていく"」

「え、なんでそれ…」


「蒼姉!春にぃ!ドッジのチーム決まったよ!」

「蒼姉こっちね!」

「ほら、決まったってさ」

「あ、うん」



○○○



すっかり日が暮れた頃。


「気をつけて帰れよー」

「春にぃばいばーい!」

「気をつけてー!」


最後まで残ってた蒼兄弟と別れ

公園を出て、歩き出す。

そして、左に曲がった。


「ただいまー」


優しい花の香りが出迎えてくれる。

バラにコスモス、リンドウ。

たくさんの花が色とりどりに、そして華やかに玄関を飾る。


「おかえりー、夕飯できてるよ」

「んー」


家に入る前に、玄関扉に飾られたススキ、ダリア、吾亦紅を見た。

キレイだ。


「春ー、早く食べちゃって。花のキーホルダー作るの手伝ってー」

「はいはーい」



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