第5話

部屋には大した家具はそこまでなかった。

テーブルとタンスと、あと大きな棚?


「じゃあ、流星と俺がこの区切りよりこっち。


疾風と横溝がこの区切りよりこっち」



ここでも私は野上とペアじゃない、ってゆーね。


流星大好きってゆーね。



「塚田くん、よろしくー」



私が笑顔を向けると曖昧に笑い返してくる。


塚田くんもそりゃ、私となんか嫌だよね。

大して知り合いな訳でもないし。


せめてこれが桜なら良かったかもだけどさ。



「美波先輩はこの引越し、反対なんですか?」



塚田くんの質問に私は首を傾げる。


「反対ってゆーか……。


だってさ、野上って私のこと全然何とも思ってなくない?」


塚田くんには目の前で告白&キスシーンを見られてしまってるので何となく、親近感。



「それにさぁ、今日だって伊達と流星ばっかりで私となんてちっとも話してくれないし」


「それは……、仲良しですもんね、三人」


せーの、で小さな棚を持ち上げる。



「度を越えてるよ」



次の家具を持ち上げようと手を置いた時だった。



「せんぱい、あの……」



ゆっくり私を見て言う。



「俺、別に先輩に恨みもないし、むしろどちらかと言えば憧れてるに近いし、これは別に桜先輩に頼まれたからするんであって、決して俺の意志じゃないですからっ!」



そう言って私に何やら小さな箱をポケットから取り出し見せてきた。



その箱を開けるとそこから、何やら不気味な指人形が勢いよく飛び出して。


「わぁ!」


ビックリして思わず声が出る。



「すみません、先輩!

本当に、ごめんなさい!」



そう言って近くにあった空のダンボールを私に被せるように投げる。



「ちょ!塚田くん、なに?!」


塚田くんの趣旨が全く理解できないっ!




するとダン、と言う仕切りが開く音と同時に野上の怒鳴り声。



「おい、はやて!

てめー、横溝に何してんだよ?!」



ダンボールをどかすと塚田くんが野上に胸ぐらを掴まれていた。



「横溝どこにいんだよ?!」


「ちょ、くるし……」


「はやく言えよ!」



私はあなたの真後ろにいます。



「いくら疾風だって、横溝に何かしたらマジで許さねーからな!」



「のがみ……?」



私は暴走する野上に声をかけた。


振り返る野上。落ちる塚田くん。覗きにくる流星。



「何で横溝がダンボール被ってんだよ?!」


座ってる塚田くんに大声で叫ぶ。


「お前、何しようとした?!」



「美波、大丈夫か?」


流星が私のダンボールをどかそうとしてくれた。



「横溝に気安く触んな!美波とか呼んでんじゃねーぞ!」



今度は流星の頭を叩く。



「いった!はあ?!なんだよ、いまさら!

俺、ずっと昔から美波のことは美波って呼んでるだろ!


……なんだよ、ったく」



頭を抑えながらも笑いをこらえる流星。



「疾風、向こう行こうぜ」



塚田くんは流星の元にコソコソと寄る。


「美波先輩、すみませんでした」


「あ、うん」



謝られても拍子抜けです。

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