第4話

ゆなちゃんは階段を上りながら私に言ってくる。


「偉くないですよ、私。

ただひたすら重い女なんです」


そう言いながら野上にツッこまれるカクちゃんを見つめた。



「カクが行くって言うから来ただけだし。

カクが頑張るから頑張るだけなんです」



ゆなちゃんとカクちゃんは二月くらいから付き合い始めてる。



「きっとここに来たらカクの笑顔が沢山見れるだろうなー、って。それだけなんで」



顔を赤くしたゆなちゃんが、なんて可愛かったことか。


「ゆなちゃん……。純粋すぎるよ……」


「でも先輩もそういうことですよね?」



部屋に入る直前、ゆなちゃんが言う。



「引越しの準備をする野上先輩が見たくて来たんじゃないんですか?」



ゆなちゃんの真っすぐな瞳を私は受け止めきれない。



言えない……。


これ以上伊達や流星と接近してほしくないから、なんて口が裂けても言えない……。



「美波先輩!ゆなちゃん!


次は部屋の片付けだそうですよー!」



カクちゃんが私達を大声で呼んでくれる。



「いま、行く」



ゆなちゃんは小さく答えダンボールだらけの部屋に足を踏み入れた。



全員をリビングに集め野上が声を張って言う。



「まず、キッチン担当とリビング担当と、それから部屋担当に分かれて作業するから」



この部屋は流星の部屋とは微妙に間取りが違っていて、一つの部屋が二つに区切れるようになってる。


まぁ、広さは一緒だから何とも言えないけど。



「それぞれの部屋に必要な家具は淳士が仕分けてくれたから。


皆はそれを適当に並べてくれ」



淳士くん、すごいな。



「ダンボールの中の整理は俺達がやるから」



確かに私達女子が運んだ軽いダンボールは全部、風呂場の前に山積みになってる。



「質問あるやついるか?」



何かノリが体育会系。


つーか、これ伊達の引越しでもあるんだよね……?


あいつ何もしてなくない?



「ちなみにこの効率的な方法を考えたの伊達だから。俺じゃねーぞ」


「何で言うんだよ!」


野上の言葉に小声で言う伊達。


「だってお前のアイデアだろ。著作権は守りたい」


著作権って。何かちょっと違くない?


そしてまた伊達への気遣いですか。


「割り振りはー……。


リビングが伊達と山本と義旭とスズちゃん。


キッチンがゆなちゃんとカクと淳士。


俺と横溝と疾風と流星が部屋」


野上が発表を終えると流星が野上に近付く。



「ちょっと待て!

俺、なんでスズとバラバラになんだよ?!


他のカップルは全部一緒じゃねーか!」


「お前とスズちゃんを一緒にしたら仕事が滞るだろ」


野上は当然というそぶりで見ていた紙をポッケにしまった。


「スズちゃんもそれで納得してるぞ」



流星がスズちゃんを見ると桜達にガッツポーズと笑顔を振り撒いてる。


「スーズー……」



流星は寂しげな声を残し、野上に腕を引かれ部屋に向かうことになった。

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