第3話

日曜日、流星の家の前にはダンボールが大量に地面に置かれていた。



「おー、横溝、山本。よく来てくれたな」



野上がニカッと笑ってダンボールをせっせと運ぶ後輩達を紹介してくる。



疾風はやてと、伊達の弟の義旭よしあき


「お久しぶりです!桜先輩、美波先輩!」


塚田疾風くんが爽やかに頭を下げる。


「久しぶりー。義旭も来たんだねー」


「兄さんの引越しなんで」


桜の笑顔に伊達弟くんは無愛想に答えた。



伊達弟くんと塚田くんは桜とは生徒会で一緒だったから割と仲良しなんだよね。



「それからカクな」


「カクちゃーん!久しぶりー!」



私が手を振ると優しく笑い返してくれた。



カクちゃんは私がマネージャーしてた軽音楽部のベースの子で、ちなみにそのバンドのボーカルが流星だったりする。



「あと女子は結奈ちゃんとスズちゃんがいるから。


淳士は今、部屋の整理」



皆知ってる人ばっかりで、とりあえず良かった。



「女子にはその辺の軽いの運んでもらってるから、横溝と山本もそこ手伝って」



さすが元部長。指示が的確かつ敏速ですね。



「流星は男子なのにダンボールなの?」


「だって危ないだろ」



私の質問に野上はサラッと答えた。



出ました!野上くんの流星贔屓!



「危なくないでしょ、男子なんだよ?」


「良いんだよ、流星は」


「そう、俺は良いの」



私の後ろから流星が偉そうに言ってきた。



私は流星を無視してダンボールを運んだ。



「美波先輩、お久しぶりです」


スズちゃんに可愛らしく挨拶される。


「引越しの手伝い、楽しいですよ!」


そんなスズちゃんの肩を組み流星が言った。



「美波になんて構わず運ぼうぜ」



お前だって何も箱、持ってないだろ!


私はため息をつきダンボールを持つ。



野上はせっせと家具を運んでいた。

男らしくて素敵だ、バーカ。



「あ、美波先輩。手伝い来たんですね」


部屋に上がると和泉いずみ淳士あつしに挨拶された。


「それはこっちに置いてください」


淳士くんの指示を黙って聞く。


「淳士、ここに置いとくな」


後ろから塚田くんが木でできた軽い棚を一人で持ってきた。



「ねぇ、塚田くん」


急ぎ気味で部屋を出ようとする塚田くんに私は声をかけた。


「はい、なんですか?」


振り返って微笑む塚田くん。



「伊達と野上ってデキてるかもって思ったことない?」



私の質問にピタリと動きを止める。



「……はい?」



私達の隣をゆなちゃんが通った。


「もしくは野上と流星がデキてんじゃないかとか思ったことない?」



目を瞬きさせながら首を傾げる。



「こらー!疾風ー!止まってんじゃねーぞ!」



野上と伊達とカクちゃんが三人でタンスを上に運んでくる。


「お前も持てよ!」


野上の指示に慌てて従う塚田くん。


野上がチラッと私を見る。


「横溝も、ほら!

あと少しだから頑張ろーぜ!」



私はこくん、と頷きダンボール置場に戻る。



しかし最後の一つを丁度、スズちゃんが持っていくところだった。



「なくなりましたね」



ゆなちゃんが屈伸しながら私を見つめて言った。


「次は部屋ですか?」



ゆなちゃんはカクちゃんの彼女で、伊達や野上とは殆ど関わりがないのに今日、わざわざ来てくれている。



「偉いねぇ、ゆなちゃんは」



私はゆなちゃんの綺麗に結ばれたポニーテールを見ながら思わず呟いた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る