怖がり女子高生の手助けをしてみた

ビリリリ!ビリリリ!ビリリリ!と目覚まし時計の音が鳴る。


「ひっ!えっ!?えっ!?ポルターガイスト?」


目覚まし時計の音を恐怖のあまり心霊現象であると勘違いしたキョウカは、音に驚いたと言うより、恐怖に震えて目が覚めた。そしてしばらくパニックになった後、勢いよく目覚まし時計を叩いてしまった。


(自分がもしナオカちゃんだったら、壊してたな、これ……ああ、またやっちゃった)


教科書、水筒、筆箱、弁当、その他いろいろなものが入ったバッグを片手に、彼女は毎日のように恐怖と戦う決意をする。


「あぁ、今日も学校に行くのが怖い。行ってきます……」


その後のキョウカの通学もやはり恐怖との戦いである。彼女の恐怖症により友達もできたことがない。


ところどころですれ違う通行人も怖いし、自分を迎えに来るバスも轢かれるんじゃないかと思って怖くなる。遅刻して怒られるのも怖いので、なんとか学校に行くことができている。


(あぁ、私って怖いことばっかりだな……。もうちょっと勇気が出せるようにならないとダメだな、私)


バスの中で空気にしがみつくように、無を抱きしめるような姿勢を取りながら、彼女はなんとか学校へと向かう。幸い彼女はバスで来れる学校に比較的近いところにいるのが救いだ。もしこれが仮に電車で来ようものならより多くの恐怖が彼女を襲っていただろう。


当然彼女は人と話すのが怖い(正確には男性恐怖症と女性恐怖症)なのでバスの下車先から学校までは急ぎで行ってしまい、他の生徒や先生などに挨拶はほとんどできていない。


こんな不自由な学校生活だが、成績が上の下くらいなのが唯一の救いだ。


今日も(彼女にとって)地獄な学校生活が終わると、急いで心内アパートに帰る。帰った直後の彼女はぐったりと倒れながら深呼吸して心を落ち着かせる。ここまでがルーティーンだ。


「はぁ、はぁ、今日も怖かったなぁ……」


キョウカが自分を慰めていると、突然そこにメリヤが入ってきた。


「あ、失礼しまーす。キョウカさん、もう帰りましたね?」


「ひゃっ!ななな、なんですか?」


「キョウカさんのさっきの発言、聞いてましたよ。キョウカさんは人前になると緊張して敬語になっちゃうみたいですね」


「それバレるの恥ずかしい……」


「いえ、恥ずかしがらなくていいですよ。それに、このままずっとビビってばかりだといつか心臓の鼓動が速くなりすぎて健康を害しそうですよ?私はそう言う医学知識はないんですけど、なんかそんな感じするじゃないですか」


「確かにメリヤさんの言うことも、い、一理あります……でも、いきなりメリヤさんなんて怖いじゃないですか!そんな羽生えてる異形のメリヤさんでいきなり慣れろなんか無理ゲーですって!」


「ビビってるキョウカさんも可愛いからずっとここにいたいんですけどねぇ」


メリヤが恍惚とした表情を浮かべると、それを感知してキョウカは叫び出す。彼女を不気味に思い、今すぐ何か害されるんじゃないかとまで不安に思ったからだ。触られたりなんかしたら悪夢を見そうでならない。


だから念の為、ある程度距離を取りながら言う。


「そうですねぇ……同じ陰の者なので新道さんと氷室さんを連れてきてください。異形な上陽の者なメリヤさんよりはそっちで練習した方がいいと思うので」


「わかりました!でもその前に一つだけ質問させてもらっていいですか?キョウカさんは第六感を持ってるって言いましたけど」


「ああ、それですか。正確に言うと『第六感みたいなもの』で、第六感じゃないんですよね。私は強い恐怖感があるので、自然と色々危険なものを見抜くことができるんです。共感覚とか、読心術とかって言うんですかね」


「よくわからないんですけど、そんな類のものが使えるんです。自分に後々害があったり、自分が怖いって思うものがあれば、それをなんとなく見抜ける。それが私の力です」


「なるほど……じゃあ私が本当は害がないってこと理解してるんですか?」


「まぁしてます……が怖いものは怖いんです」


「それならいいです。じゃあ、レイさんとアサヒさんのこと呼んできます〜。失礼しますね〜」


そのままメリヤはレイとアサヒのことを呼びに彼女の部屋を出た。


しばらくしてレイとアサヒが自らキョウカの部屋である202号室まで赴くと、そこには目を閉じながら規則正しい呼吸を行い、数をゆっくりと数えているキョウカがいた。


「あ、キョウカ。ちょっと入るぞー」


「申し訳ない……本当はキョウカさんも僕を恐れているのはわかっているが、メリヤさんに呼ばれてきてしまった」


「いえいえ、メリヤさんに頼んだのは私です……。それに、私だって恐怖を克服したいからここにいるんです」


「うーん、そうだな……何かできることはあるか?アサヒ」


「そうだな……まずはお茶とお菓子でも一緒にいただくのはどうだ?僕がこの前スイーツ店で買った新作のミルフィーユがちょうど3つあったから、それを食べることにしよう」


「あぁ、ありがとうございます、アサヒさん。甘いものは嫌いじゃないので……」


「一応聞いておくが、紅茶とコーヒーとココアではどれが好き?」


「ココアでお願いします。なんか一番落ち着けそうなので……」


「わかる。まあ俺はコーヒーの方がいいけど」


「わかった。とってこよう……」


アサヒはドアを開けて自分の部屋に戻り、ミルフィーユを彼の冷蔵庫からとってくる事にした。ちなみにアサヒは自分のカップには紅茶を注ぐ事にした。彼はアイスのレモンティーが好きなので、そのための茶葉を用意して注ぎ、氷を入れた。


もちろん、二人のカップにココアとコーヒーを注ぐのも忘れない。慎重にゆっくりやったので、10分ほどかかってしまった。


大きなトレイにそれぞれの飲み物が注がれた3つのカップとミルフィーユが1つずつ載った3枚の皿を乗せて、あえて閉めずに放っておいたドアを通ってキョウカの部屋に戻った。


「一応、私の行きつけのスイーツ店で買ったミルフィーユだから不味くはないと思うが、口に合わないのなら残してもいい。私は残飯でも食べる。どうか、召し上がってくれ……」


「そ、そう言われるとなんか申し訳なく感じちゃいますね」


「まあ食うけどな。コーヒーに合いそうだし」


二人が添えられたフォークでミルフィーユを食べると、急ににっこりした顔になり、アサヒの方を見た。


「これ、美味しいです」「うん。なかなかいいミルフィーユだな」


「そうか、それならよかった……。アパートの仲間がいいと思ってもらえて、私は幸せだ……」


そのままミルフィーユを3人が美味しく食べ終わると、次にレイはポケットからトランプを取り出す。


「はい、これ持ってきたけどとりあえずババ抜きでもやるか?」


「やりたいと思います……」

「私も賛成だ……」


「なんか二人ともクソテンション低いな。トランプは楽しんでやるものだろ。まあ俺がやりたいしお前らも反対してるわけじゃないからやるんだけど。それじゃカード切って分けるぞ」


レイによってカードが配られると、ババ抜きが始まった。


結果はキョウカが1度もババを引かずに最初に勝ち抜け、レイとアサヒの一騎打ち。最終的にレイが勝利した。


「ああ、いいよ……僕は最初から負ける運命だったんだ……」


「それにしてもキョウカは一度もババ引かなかったな。もしかしてお前の能力か何かか?」


「はい……私は怖いものを第六感的なもので感じ取ることができます……ある程度は慣れていても、障害物があってもです。そして、負けて恥をかくのが怖かったのでババがその能力でなんとなくわかったんです」


「でも俺がババ持っててよかったな。アサヒがババ持ってたらそれ通用しなかったぞ」


「ああ……確かにそうですね……でもそうなるとアサヒさんが怖くなってきますぅ!」


「まあまあまあまあ。とりあえずでも俺のことはそこまで怖くなくなっただろ?」


「は、はい……なんとか人付き合いの距離は掴めた気がします」


その後も少し談笑したり、一緒にテレビを見たりして、3人はなんとかレクリエーションの時間を過ごした。


「楽しかったぞ。またな」


そうして2人はそれぞれの部屋に戻っていく。それを見たキョウカはあまりビビらずに二人と接することができたことを嬉しく思っていた。


「あ、キョウカさん。なんとかなったみたいですね。これからまた一歩踏み出していきましょう!」


しかし、レイの報告を聞いてとんできたメリヤに驚いてまた怖がってしまった。


「そ、そそそそれはそうですけど、メリヤさんがくる必要はないじゃないですかぁ!」


(ビビってるキョウカさんもかわいいけど、これじゃあ私とうまくやるのは当分先になりそうですね……)

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