Episode:2 鷹の名

2-1

焼いた肉と炭火の旨そうな臭いが鼻腔いっぱいに広がる。

「いやぁ、今日は付き合ってくれてありがとうね」

網の上に乗った肉がジュージューと音を立てている。

「いえいえそんな。一人だと焼肉とか来れないし、むしろありがたいです。それよりも夢子さん、それ大丈夫なんですか?」

今僕の目の前にいるのは吉原の高級ソープ嬢であり、その彼女は今、深紅のドレスを身に纏っている。かなり焼き肉屋に相応しくない格好をしており、正直めちゃくちゃ浮いてしまっている。

「あ、これ?大丈夫大丈夫。この後クリーニング出すし。今日ちょっとあまりにも限界すぎて着替えずにそのまま来ちゃったんだよね」

「夢子さんがいいならそれでいいですけど.......」

「君も別に気にしないだろ」

「気にはなんないですけどこの人大丈夫かなとは思いますよ」

「辛辣だね」

あはっ、と笑いながら夢子さんは言う。

夢子、というのは彼女がネットで名乗っているハンドルネームで、本名は一応は知っているものの、本名で呼ぶことはあまりない。

「いやぁでもセイくん居なかったら当たってなかったからね、抽選」

結局、試合のチケットは夢子さん名義では当たらず、僕名義のほうでしか当たらなかったそうだ。そのお礼も兼ねて今日は夢子さんのヤケ焼肉に連れ出されている。

「今日の客マジで最悪で、副業でアナウンサーとかやってる?とか聞いてくんの。ばっかじゃねえの。しかもガシマンだし、痛すぎて思わず手ぇ出しそうになったわ」

大変ですねぇ、と話半分で肉を焼く。夢子さんは自分の愚痴を誰かに聞いてほしいだけで、こちらにレスポンスを求めていないことが多い。しばらく二人で肉を焼きながら夢子さんの数多くの愚痴や悪口を聞いていると、だいぶ夢子さんの様子が落ち着いてきた。

「セイくんはどうなの?最近」

飛田鷹史とされる人物が自分を買ったことはまだ彼女には言っていない。

「特に変わったことは。めちゃくちゃタイプなイケメンに指名されたことくらいですかね」

「えっ何それ詳しく」

「いや、なんかスポーツとかやってる人なのかなってくらい腹筋が綺麗で、背が高くて、別に売り専来なくてもセックスし放題だろみたいな見た目で。まあ、いつものおじさん地獄と比べたら天国でしたよ」

「でも客でしょ?なんか変なこと言われなかった?」

「別に。また指名しますとは言われましたけど」

「えーすごーい本指じゃん、ラッキー」

熟練の風俗嬢ともあって、夢子さんは客は客、と言ったスタンスだ。概ね同意するが、客に対してかなりシビアな見方をするため、少し窮屈そうにも見えてしまう。

そういえば、ずっと聞いてなかったことがある。

「夢子さんはどうして風俗やってるんですか?」

「え?お金が欲しいから」

「即答」

「だってそうでしょ。こんな短時間で大量にお金稼げる仕事ほかにないよ」

でもね、と夢子さんは続ける。

「この仕事は嫌いだよ。あたりまえだけど。でもそれ以上に私は会社勤めができなかった人間だから。嫌だけど、できる仕事ではあるわけよ。それにね、好きなことだけで生計立てるってなかなか難しいの。だから"耐え"だねひたすら」

夢子さんは自分で洋服をデザインして、それを売っている。しかしその収入だけでは生活ができないため、仕方なく今の仕事を続けているのだという。

「生きるのがこんなに大変だとは思わなかったなぁ」

網の上の焼肉をひっくり返しながら夢子さんは言う。

そんな夢子さんの様子を見ながら言う。

「バレーの試合、僕も観に行っていいですか」

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