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後ろの準備を終えて事務所に戻ると、慌ただしくハジメさんが戻ってきた。

「すごいよツバサ!ラッキーだったね!」

「えっ、何の話ですか?」

「今日のお客さん!顔はマスクしてたからよく見えなかったけど多分私より若いしめちゃくちゃ背高いしガタイもいいし!」

ハジメさんの身長は成人男性の中でも低くはない。年齢は詳しくは知らないが本人曰く20代後半だ。だとすると20代前半、下手したら同い年くらいの可能性もある。だが客は客だ。

「いや、でも客ですよ?ガタイがいいだけのブスの可能性全然ありますって」

「それはそうだけど、おじさんよりは若くてちゃんとしてる感ある人のほうがマシじゃん」

「それはそうですけど......」

「まあまあ、お茶出しするついでに自分で確認してきなよ」


売り専は店舗にもよるが、出張ではない場合まずほかのボーイが待ち合わせ場所へ迎えに行き、部屋に案内、その後指名されたボーイがお金をもらいに行き、事務所に戻って一度納金、その後また戻ってプレイ開始、という順だ。お金をもらいに行く際に同時にお茶も持っていく。少なくともここ、アルカディアではそうだった。

「じゃ、お茶出し行ってきます」


三階にあるプレイルームは合計で4つだ。店は四人の客を同時に取ることができる。

今日はこれ以外の指名はないため、今回の客は301号室に通されている。301はほかの3部屋よりも比較的広く、何より壁が薄くない。物音を立てても外に漏れる心配がなくて良い。以前、304でほかのボーイが取った客の声が事務所まで届いていたことがあり、いたたまれない気持ちになったため、細かいことだが重要なのだ。こういうのは。

301と書かれた扉を開ける。

「失礼します」

中のソファに座っていた人物がこちらを向く。その客の顔を見ると、どうやらマスクは外していたようだ。

あ、と思った。こう思った経験は過去に数度ある。界隈的には「イケる」というやつだった。

「はじめまして、ツバサです。よろしくお願いします」

少しの動揺を抑えながらいつもの定型文を発すると、よろしくお願いします、とその客は応えた。

「はじめに料金をいただくことになってて、今回は120分なので二万二千円です」

お茶をコースターに置きながら言うと、その客は言った。

「すみません、ここ使うの初めてで端数分持ってきてなくて。三万円からでも大丈夫ですか?」

「構いませんよ」

営業スマイルを保ちながら答える。初めてなのか。若いし不思議ではない。むしろ何故こんな上物がここにいるのかという疑問が芽生えそうだった。しかも丁寧なしゃべり方だ。ボーイを一人の人間として扱ってくれる客は少ない。少なからずこちらを下に見た態度を取るのが客の常だ。

普段とのギャップと、好みの顔が自分の中にある欲を段々と掻き立たせるようだった。

三万円を受け取って階段を下っている際、下半身が少しだけ興奮していることに気づき、自分の正直さに嫌になる。「仕事だぞ」自分にそう言い聞かせて、事務所へ戻った。

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