1-2 

事務所へ通じる扉を開けると電子タバコの独特なにおいが鼻につく。

部屋に入って目の前の靴箱にはディズニー映画のジグソーパズルの完成品が飾ってある。

事務所、と言っても数台のパソコンとソファとテレビがあるだけで、見た目はどこにでもあるような、ただのリビングルームである。要は待機所___控え室だ。

玄関で靴をスリッパに履き替えながら、ソファに座ってテレビを見ているボーイに声をかける。

「おはようございます」

「ツバサおはよう。今日予約入ってるから後で確認しといてね」

「ありがとうございます」

部屋に入りながらそのボーイ、ハジメさんに礼を言う。

ツバサ___笠木清かさぎせいはこの店ではそう呼ばれている。

無論、ハジメも源氏名で、僕も本名は知らない。彼はこの店に在籍して四年のベテランボーイで、僕の先輩に当たる。

控え室にはオーナーの趣味であるディズニーのグッズが所狭しと置いてあり、風俗業という物々しい概念とは相対し、中は案外ファンシーな空間になっている。

控え室の奥にはキッチンがあり、その隣に洗面所とトイレ、控え室と通じている部屋はオーナーの作業部屋兼物置きになっている。1LDKと呼ぶのだろうか。複数人が待機していても狭さを感じさせない作りになっている。

荷物を置いて予約時間を確認したあと、オーナーに挨拶しようと部屋を見渡すがハジメさんのほかには誰もいない。

「あれ今日オーナーは?」

疑問に思い聞いてみると、

「お休み。昨日遅くまで酒飲んでたらしくて今死んでるらしいよ」

ソファに置いてあるミッキーマウスのぬいぐるみを無造作に撫でながらハジメさんが答えた。

こういう日は今日が初めてではない。

店長としてどうなのかとは思うこともあるが、無類の酒好きであるオーナー、武蔵野は近所のゲイバーでよく潰れる。普段は仏頂面で常に不機嫌なのにも関わらず、酒が入ると人が変わったように騒がしくなる。「潰れちゃったから店に連れて帰って」と行きつけのバーのママからの連絡を受け、引き取りに行ったことも一度や二度ではない。

「じゃあ今日は結構自由にできますね」

「そ、だから......」

何か企むような顔でハジメさんが言う。

「ツバサ、ポケモンカードしようか」

そう言われぎこちなく時計を確認すると、先ほど確認した予約の時間まで二時間近くあった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る