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事務所へ通じる扉を開けると電子タバコの独特なにおいが鼻につく。
部屋に入って目の前の靴箱にはディズニー映画のジグソーパズルの完成品が飾ってある。
事務所、と言っても数台のパソコンとソファとテレビがあるだけで、見た目はどこにでもあるような、ただのリビングルームである。要は待機所___控え室だ。
玄関で靴をスリッパに履き替えながら、ソファに座ってテレビを見ているボーイに声をかける。
「おはようございます」
「ツバサおはよう。今日予約入ってるから後で確認しといてね」
「ありがとうございます」
部屋に入りながらそのボーイ、ハジメさんに礼を言う。
ツバサ___
無論、ハジメも源氏名で、僕も本名は知らない。彼はこの店に在籍して四年のベテランボーイで、僕の先輩に当たる。
控え室にはオーナーの趣味であるディズニーのグッズが所狭しと置いてあり、風俗業という物々しい概念とは相対し、中は案外ファンシーな空間になっている。
控え室の奥にはキッチンがあり、その隣に洗面所とトイレ、控え室と通じている部屋はオーナーの作業部屋兼物置きになっている。1LDKと呼ぶのだろうか。複数人が待機していても狭さを感じさせない作りになっている。
荷物を置いて予約時間を確認したあと、オーナーに挨拶しようと部屋を見渡すがハジメさんのほかには誰もいない。
「あれ今日オーナーは?」
疑問に思い聞いてみると、
「お休み。昨日遅くまで酒飲んでたらしくて今死んでるらしいよ」
ソファに置いてあるミッキーマウスのぬいぐるみを無造作に撫でながらハジメさんが答えた。
こういう日は今日が初めてではない。
店長としてどうなのかとは思うこともあるが、無類の酒好きであるオーナー、武蔵野は近所のゲイバーでよく潰れる。普段は仏頂面で常に不機嫌なのにも関わらず、酒が入ると人が変わったように騒がしくなる。「潰れちゃったから店に連れて帰って」と行きつけのバーのママからの連絡を受け、引き取りに行ったことも一度や二度ではない。
「じゃあ今日は結構自由にできますね」
「そ、だから......」
何か企むような顔でハジメさんが言う。
「ツバサ、ポケモンカードしようか」
そう言われぎこちなく時計を確認すると、先ほど確認した予約の時間まで二時間近くあった。
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