Episode:1 翼の折れた鳥

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ゲイ風俗店「アルカディア」は小さなアパートのような構造で、玄関の扉を開けるとまず階段があり、二階が事務所、三階がプレイルームになっている。もともとは民泊とか、二世帯住宅向けの建物だったのであろうこの建物は、人が風俗店と聞いて想像するであろう暗さや汚さを感じさせない、思うより小綺麗な建物となっている。大家はこのことを知っているのだろうかと思って一度先輩のボーイに聞いてみたが「知らないんじゃない?知ってたら多分貸さないでしょ」という身も蓋もない答えが返ってきた。

九州や東北にも展開しているような大手の売り専とは違い、都内を中心にぽつぽつと系列店があるだけのアルカディアは、一つの大きな建物をそのまま借りる金がないのだろうなと邪推する。そうでなくても売り専というものは通常の風俗店___女性が男性を接客するモノとは違い、客単価がかなり低い。60分一万円前後で、ボーイに渡される報酬はその半分だったり七割だったりするところが多く、これは通常の風俗店でいえば格安、激安店に該当する。また、待機しさえすれば指名される訳でもなく、どれだけその店で人気なボーイでもその日指名されないことなんてザラにある。まあポルノビデオのパッケージになっていたり、業界的にも有名な人間はその限りではないのかもしれないが、全体の一パーセントにも満たないのではないだろうか。そもそもゲイ風俗店を利用するような絶対数が少ない。それゆえにゲイの性風俗産業は法律的に摘発されることなく、暗黙の了解的に社会に存在している。

よくインターネットの論争で「女はいざとなれば体を売ればいい」という偏った意見に対し、その反論として「男も体を売れる」とゲイ風俗の存在を上げられることがあるが、それを見る度に失笑してしまう。そんなホイホイ稼いでみたいものだ。

その上、一昔前は自分と同じ人間とセックスするのにネット掲示板やハッテン場、売り専を利用しないと出会えなかったが、インターネットが発達した今、わざわざ売り専を利用する必要がない。これは買い手だけの話ではなく、売り手の場合でも同じことが言える。

昨今は月額課金制で自ら撮ったポルノビデオを販売する人も後が立たない。わざわざ店舗に在籍し、知らないオジサンのペニスをしゃぶる必要は、最早ないのだ。

しかし、売り専がそういった技術や体力のないものの受け皿になっているのもまた事実だ。

斜陽だが、買い手と売り手、どちらにも需要はある。

いまのゲイ風俗とはそういうものなのである。

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