第79話

「あーあ、本当、見てて焦ったいなぁ」


「っ、」



呆れた声を上げたのは正面にいる瀬古さんで、「エレベーターの占領は良くないから降りるよー」と肩を押される。


エレベーターを降りても響は私を後ろから抱きしめたまま、敵意剥き出しで瀬古さんを睨むから、もうなんか色々と、本当に申し訳なくなってきた。



「そんなに威嚇しなくても、獲ったりしないよ。だって直江さん、君がいいって言うんだもん」


「っ、ちょ、瀬古さん!」



勝手に私の気持ちを響に告げる瀬古さんに心底焦って声を上げたが、それさえもフッと笑い飛ばして、瀬古さんは私の後ろの響を見上げた。



「でも、このまま涼ちゃんを泣かせるようなら……おっさんも本気出しちゃおうかな?」


「……」


「ふ、怖い顔。たまには甘えさせてあげなよ?女の子は甘えたい生き物なんだから」


「うっせぇ、セクハラじじい」


「うわ、パワーワード」



クスクス笑いながら執務室の方へ歩いていく瀬古さんは途中で思い出したように振り返り、「あ、今5ーA会議室空いてるよ。泣き止むまでそこいれば?」と廊下の向こうを指差した。



「……どこまでもムカつく男」


「え?」


「行くぞ、涼」


「っ、ちょ……」



腕を引かれ、瀬古さんが言っていた会議室へ連行される。ブラインドカーテンの隙間から差し込む夕日を背で受け止めながら、私を入り口のドアに追い詰める響。

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