第77話

「はっ、……はぁ、うっ、ぅぅ」



後ろから「涼!」と声を上げながら駆けてくる音がする。


息が切れる。涙が溢れる。涙でボロボロの……こんな弱い私を見せるのは嫌だ。もっと彼に嫌われる。



エレベーターホールまで来て、上ボタンを押すとすぐに点滅したランプ。逃げ込むように中に入ればそこには見知った人間がいた。



「……直江さん?」


「はっ、……はあ、」



営業帰りの瀬古さん。息を切らしながら泣きじゃくる私を前に驚嘆している様子だ。



「どうしたの?」


「……っ、うっ、うぅ、瀬古さんのせいですから」


「え?…………響くんと何かあった?」


「……」



私の八つ当たりに怒ることもなく、聡くて大人なこの人が嫌だ。



「瀬古さんが、……変わってもいいって言うから、変化を望んでもいいって言うから……だから私、調子に乗って……」


「ん、ごめん。でしゃばったね」



「大丈夫、落ち着いて?」と背中を叩いて落ち着かせようとしてくれるその手があまりに暖かくて……何故だかさらに涙が溢れ出る。



「分かってたのに、響が私のことなんか恋愛対象に見てないって。そのことを真正面から受け止めるのが怖くて……ずっと逃げてたのに」


「ん……」


「女に、見たことないって。分かってたけど、本人の口から聞いたら……死にたくなりました」


「……」



私の両肩に手を置いて真正面から見つめてくる瀬古さんに顔を伏せた。でもすぐに彼の手が顎下に添えられて、酷い泣き顔を覗き込まれる。



「……可愛いよ。直江さんは可愛い」


「っ、」


「ちゃんと女の子だし、……君を傷つけるような恋愛なら、さっさと辞めればいい」


「……」

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