第76話

「女の人無理なんて私を振るための口実でしょ?!それならそうとはっきり言ってくれれば良いのに!」


「嘘じゃねぇし」


「だってあの子は……」



声を荒げる女性に大きなため息を吐いてから呟かれた言葉。




「……涼を女とか、思ったことねぇから」




それは、私の心をズタズタに引き裂く、最悪の言葉。



あーあ、私はまだ自惚れていた。私は気持ち悪い女にすらなれない。響にとって、私は……女なんかじゃない。


ガラガラと自分が崩れていく気がした。少なからずあった自尊心は崩れ去り、劣等感が塔を作る。



伸び続けた身長が嫌い。肉のつかないこの薄い体が嫌い。真っ黒な直毛も、可愛げのないこの奥二重も、少し掠れた低い声も……大嫌い。




「……っう、」



本当は私だって、誰かに愛されるような可愛い女の子になりたかった。



「じゃ、もう話すことないんで」とあっさり切り上げて去ろうとする響の足音がこちらに近づいてくる。早く逃げないといけないのに、漏れでそうな嗚咽を堪えるのに必死でしゃがみ込んだ状態から動けない。


どうしよう、こんな姿……見せられない。こんなみじめで、情けなくて、醜い私なんて……



「……えっ、涼?」


「っ、」


「は?なんで泣いて……」



響の"ナイト"でいられない。



「ごめん、響……」


「は?……おいっ、涼!」



さっきまで全く体が動かなかったのが嘘のように、解き放たれた体が走り出す。


フォームも息遣いも最悪なのに、何故だか陸上部の練習の時より早く走れている気がした。



さっきまで響に会いたくて仕方がなかったのに、今はとにかく響から離れたい。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る