第72話

「素敵だね、そんな風に思ってくれる幼馴染がいる響くんが羨ましいよ」


「だからそんな良いものじゃ……」



またおちょくられるのではないかと思って否定の準備を始める私の口。



「でも、そうやって"あるべき姿"ばかり守ってると、いつか後悔するよ」


「……っ、」



しかし、急に真剣な表情で見つめられ、ドキリと心臓が嫌な汗をかいた。



「"響くんは"直江さんのこと恋愛的に見てないんだね?直江さんはそう思ってる」


「……」


「じゃあ"直江さんは"?響くんのことどう思ってるの?」



テーブルに頬杖を付いて語りかける彼。膝の上で握った拳がじとりと湿り始めた。



「瀬古さんには……関係ないです」



やっとの思いで質問を躱せば、クスリと笑って「それもそうだね」とそれ以上の追求は免れた。でも、



「人生の先輩として勝手に忠告しておくと、変わらない関係なんてこの世にないからね」


「……」


「ずっと変わらず一緒に居続けたいなら、時に変化は必要だよ?」



一方的に向けられたその言葉に胃のあたりが酷くうねった。それは今までの私を否定し、今の私の背を押す言葉。


不変だったはずの響との関係はつい先日変化を迎えた。


都合の良い関係。きっとこんなのは間違っているし、拒否しなければならないって分かっているけれど、どうしてもそうできなかったのは、響に触られる喜びを知ってしまったから。


行為中の熱い瞳も、優しく触れる指先も……知ってしまえば抜け出せない。完全に彼という底なし沼に嵌ってしまっている。



『ずっと変わらず一緒に居続けたいなら、時に変化は必要だよ?』



本当にそうなのだろうか。関係を"戻す"じゃなくて……"進める"ことを望んでもいい?身の程知らずだとバチが当たったりしない?



……響に、愛されてみたい。



誰にも言えない、そんなふわふわした願いを……認めてあげても良いのだろうか。

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