第70話

「……」


「なーおえさん?」


「っ、わ、はっ、わ!」



背中を丸めてコソコソとスマホ画面を覗き込んでいたからか、背後の気配に気づくのが遅れた。


ポンと背中に触れた手の感触に大きく肩を揺らした拍子、手から溢れたスマホをお手玉のように何度か手で弾く。ようやくそれをキャッチすると、咄嗟の動きで画面をテーブルに叩きつけた。



「え、大丈夫?画面割れてない?」



振り返れば、困惑したように心配の言葉をくれる瀬古さんが立っていて、「だ、大丈夫です……」とヘラリ笑って誤魔化す。


この検索画面が見られていないのなら、たとえ画面が割れていようが本望だ。


そんな私の思いを知ってか知らずか、瀬古さんは「そ?」と首を傾げてから対面の席にトレイを置く。



「ここいい?」


「あ、はい。どうぞ」


「ありがとう」



今日も相変わらず爽やかで軽やかな笑顔。瀬古さんみたいに余裕のある大人なら、私みたいにジタバタしないんだろうな。


彼の大人さを羨ましく思いつつ、ビニールに残っていたハムサンドに手を伸ばした、そのとき。



「あ、そうだ。先週、大丈夫だった?」


「先週……?」


「ほら、飲み会で。真壁くんに送ってもらったでしょ?」


「っ、」



不意に投げられた質問に思わずハムサンドのレタスだけがずるっと引き出された。


今さっき瀬古さんの大人さを羨んだばかりだというのに、あまりに分かりやすい自分が恥ずかしい。



「だ、大丈夫です。ちゃんと帰り着けました。ご迷惑おかけしてすみま……」


「ふーん?その反応は……なんか進展あった?」


「っ?!」



ニマッと笑って尋ねる彼にまた分かりやすく目を広げてしまう。もう本当に嫌だ。いっそ顔を伏せて石になってしまいたい。

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