第65話
彼にも、この空気にも酔っていた。
ふわふわと、全てが幻として消えてしまいそうな現実に縋りついて、一生の思い出を乞う。
「……言われなくてもそのつもり」
「……」
「涼は、俺のもんだから。……俺だけのもんだから」
ぎゅっと私を抱きすくめた響は苦しそうだった。抱きしめられているのに縋られているみたいだ。『どこにも行くな』って。
まるで、お気に入りのおもちゃを取り合う子どものように……その独占欲は幼稚で力づくの所業。
……でもいいよ。今は間違っているなんて君を諭したりしない。私、君の嫌いな狡くて卑しい女になる。
「……涼、」
私を見つめる熱っぽい瞳も、張り付く湿った肌も、掠れたその色っぽい声も。私が独り占めする。誰にも渡さない。
誰をも酔わすそのフェロモンに、私だってどっぷり浸かってみたかった。
「響、……」
「……」
響に熱視線を浴びせるあの子たちのように……「好き」を隠さず君を見つめたかった。
「痛い」と言えば、抱きしめてキスをして、「気持ちいい」と言えば、やっぱりキスして抱きしめる。
押し広げられるような痛みはあっという間に快感に変わり、死にたくなるほど卑猥な姿を好きな人に見せた。でも、……——
「こういうの全部、俺だけの涼な?」
そう言って笑うのだ。甘く私を見下ろして。やっぱり深くキスをするのだ。
響を表現するなら甘い匂いを漂わす美しい花だと思っていた。あらゆるものを引きつけては、毒のある棘で攻撃する。
でも、実際は“沼”だ。引き込まれればもう抜け出せない。
すんでのところで踏ん張っていたのにまんまと彼の渦に飲み込まれてしまった私は……これから前のように生きられるだろうか。
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