第59話

「……響」


「……」



正面から鋭い瞳でこちらを睨む響。地面をスニーカーの底で擦りながらこちらに近づいてくる姿がやけにスローモーションに見えた。



「……俺が家まで連れて行きます。家知ってるんで」


「え、でも……」


「なんすか?そんなにこいつの家知りたい?」


「……」



瀬古さんの腕を払って私を抱えた響。そんな失礼な言い方しないでって注意したいのに、人生で一番多く嗅いできた彼の匂いに安心して急激な眠気に襲われる。



「……じゃあお願いしようかな」


「……うす」


「ちゃんと、送り届けてね」


「……」



「じゃ」と短い別れの言葉を残して遠ざかっていく足音。その足音が完全に聞こえなくなった頃、響は不貞腐れた声で言った。



「お前に言われる筋合いねぇんだよ」



ぎゅっと私を抱く腕に力が籠る。はあっと頭部に熱い息が掛かったと思えば、次の瞬間、「くそ……俺のに触んな」って……。


流石に酔っ払いすぎた。都合の良い夢を見ている。そう思わざるを得ない状況に、キャパオーバーで意識を手放した。

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