第57話

「心配?真壁くんのこと」


「へっ?!」


「さっきから彼のことばっかり見てる」


「え、……いや」



隣の席から顔を覗き込んでくる瀬古さんに分かりやすく動揺してしまう。それはもう全身で彼からの問いかけを肯定していた。


私ってもっとポーカーフェイスが上手かったはずなのに……営業のプロに掛かれば感情ダダ漏れの幼児同然らしい。


ハイボールの入ったジョッキを傾けながら、響の方を眺める瀬古さんは「ハーレムだね、羨ましいな」と冗談を言う。



「普通の男性はそうですよね……」


「あ、でも俺は直江さんと喋れる方が嬉しいよ?」


「……」



顔を覗き込まれるが、瀬古さんのこういうのにも若干免疫ができてきた。


やや体を仰け反らせて「そういう冗談言われてもうまく返せないです」と真顔で返せば、「あらら」とおかしそうに口を抑える。



「冗談じゃないんだけどなぁ」


「瀬古さんも、他の女性と話してきて大丈夫ですよ?」


「え、なにそれ。始まってからずっと隣キープされてるのキモいなって感じ?」


「えっ、いや、そんなつもりじゃ……」



慌てて否定すれば、「引っかかった」と言わんばかりに破顔して。その顔を見た瞬間「引っかかってしまった」と恥ずかしくなる。



「瀬古さん、意地悪ですね」


「ふふ、可愛い子はいじめたくならない?」


「やめておいた方がいいですよ。私みたいな恋愛経験浅い女は勘違いしやすいんですから」



これ以上良いようにされてなるものか、と。やや不機嫌顔で瀬古さんを睨めば、ほろ酔いの彼の指先がこちらに伸びてきた。



「いいよ、上等。勘違いしなよ」


「……っ、」


「イケメン幼馴染に勝つには、口と行動で責めるしかないでしょ」



触れられた耳が熱を帯びる。驚いて目を見開けばやっぱり余裕の表情で笑われて。次の瞬間には「次何飲む?」と何事もなかったようにメニュー表を差し出される。



「に、……日本酒を」


「ふふ、勇ましいの呑むねぇ」



ハーレム状態で女の人にベタベタ体を触らせている好きな人。


何故か私なんかを口説いてくる先輩。



そんなふたりを目の前にして……飲まなきゃやってられないでしょう。

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