第54話

これは犬猫、子どもに対する「可愛い」であって、恋愛感情をはらんだ「可愛い」ではない。あまりに不慣れな私が可笑しくて笑っているだけなんだ。


頭では分かっているのに、心の奥の乙女な私が『この人、私に気があるんじゃ?』なんて自意識過剰なことを囁いてくる。


そんなわけない。ありえない。瀬古さんは大人で、仕事ができて、お顔立ちもかなり整っていて……。


女性に困ったことなんてないだろう人が私なんかを相手にするはずがない。私を女の子扱いしてくれるほどにただ優しいだけだ。


自分に言い聞かせて、それでも無意識に火照る顔が恥ずかしい。これ以上気づかれたくなくてテーブルについたキズをじっと見つめながらお冷やをちょびちょび口に含んでいれば……



「あ、直江さん……」


「へ?は、はい……っ、?!」



声をかけられて振り向くと、こちらに手が伸びてきた。


突然のことに驚き、肩を引き上げて固まる私にどんどん近づくその手が右耳に……



——触れる直前、耳たぶにプチッと走った痛み。



「……っぃた」


「……涼、イヤリング取れかけてる」


「え、響?」



そこには、私のイヤリング片手に仏頂面で私と瀬古さんの間に立つ響。


パチパチと瞬きを繰り返して彼を見上げていれば、「人があげたもん早々に落とすんじゃねーよ」と眉間に皺を寄せながらイヤリングを付けてくれた。



「ご、ごめん……」


「いいけど。ちゃんと付けてて」


「……」



言いながらチラッと瀬古さんに視線を向けた響に瀬古さんは「君が噂の幼馴染くんか」と笑う。

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